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ワウフラッター

Posted by Arsène

「ワウフラッター」について、用語の意味などを解説

ワウフラッター

wow and flutter(英)

ワウフラッターという音楽用語の内、ワウは比較的周期の長いムラ、フラッターは比較的周期の短いムラを意味し、アナログ・レコード用ターンテーブル、テープ・レコーダーの回転及び走行ムラの事をいう。

これが増えると音が濁り、ひどくなると再生音の音程が不安定になる。

物理的メカニズムと周波数変調の原理

ワウフラッター(Wow and Flutter)とは、録音・再生機器の機械的な動作不良に起因する、信号の不要な周波数変調(Frequency Modulation)現象である。音楽用語としては一括りにされることが多いが、音響工学的にはその変調周波数の周期によって明確に区別される。一般的に、周期が遅い(約6Hz以下)ものを「ワウ(Wow)」、速い(約6Hz以上)ものを「フラッター(Flutter)」と呼称する。

ワウは「ウワンウワン」というゆっくりとした音程のうねりとして知覚され、主にレコードプレーヤーのターンテーブルの回転ムラや、偏心(レコードの中心穴がずれている状態)、あるいはテープの巻き取りリールの不均一な回転などが原因で発生する。一方、フラッターは「プルプル」「ザラザラ」とした震えとして知覚され、キャプスタン軸の偏芯、モーターの極数に由来するトルクムラ(コギング)、あるいはテープ自体の振動(スクレープフラッター)など、より微細で高速な機械的振動が主因となる。

アナログ時代の技術的闘争と測定基準

アナログオーディオの全盛期において、ワウフラッターは「排除すべき絶対悪」であった。特にピアノや正弦波に近いシンセサイザーの持続音は、わずかなピッチの揺れでも人間の聴覚が鋭敏に感知してしまうため、オーディオ機器の性能指標として極めて重要視されたのである。

日本オーディオ協会やIEC(国際電気標準会議)などの規格では、3kHzまたは3.15kHzのテスト信号を用いて測定され、その変調度を「WRMS(Weighted Root Mean Square:聴感補正実効値)」という単位で表すことが一般的であった。かつての技術者たちは、質量の大きなプラッターによる慣性モーメントの利用(ベルトドライブ)や、水晶発振器による高精度な回転制御(クォーツロック・ダイレクトドライブ)を駆使し、この数値を0.01%以下のレベルにまで封じ込めることに心血を注いだのである。これは単なるスペック競争ではなく、原音忠実再生(Hi-Fi)という理想への執念の表れであった。

「劣化」から「美的表現」への価値転換

デジタルオーディオの普及により、ワウフラッターは物理的な制約から解放され、理論上は「ゼロ」の世界が実現した。しかし、皮肉なことに、あまりにも正確すぎるデジタルの再生音は、時に「冷たい」「人間味がない」と評されることとなった。ここで起きたのが、ワウフラッターの再評価と美的価値の転換である。

Lo-Fi Hip HopやVaporwaveといった現代の音楽ジャンルにおいては、ワウフラッターは意図的に付与される「エフェクト」として市民権を得ている。DAW(Digital Audio Workstation)上のプラグインを用い、LFO(低周波発振器)でピッチを揺らすことで、劣化したカセットテープや使い古されたビニール盤が持つ「不安定さ」をシミュレートする。この揺れは、グリッドに縛られたデジタル音楽に有機的な「ゆらぎ」を与え、リスナーに対してノスタルジアや安らぎを喚起させる心理的効果(サウダージ)をもたらすのである。

現代における修復と創造の両義性

現代の音楽制作現場において、ワウフラッターは「除去」と「付加」という相反する二つのアプローチで扱われている。 アーカイブ保存の分野では、Celemony社のCapstanのような高度なソフトウェアが登場し、古い録音に含まれるワウフラッターを解析し、デジタル処理によって驚異的な精度で補正・除去することが可能となった。これにより、歴史的な名演が当時の録音機材の不備から解放され、本来の演奏意図に近い形で蘇っている。

一方で、クリエイティブな制作現場では、前述のように意図的な「汚れ」としてワウフラッターが積極的に活用されている。特にBoards of CanadaやJ Dillaといったアーティストの影響下にあるクリエイターたちは、微細なピッチの不安定さを楽曲のテクスチャ(質感)として扱い、空間的な広がりや温かみを演出する重要な構成要素としている。かつては技術的な敗北の証であった回転ムラが、現代では感性を刺激する芸術的なツールへと昇華された事実は、技術と芸術の関係性を考える上で極めて示唆的であるといえるだろう。

「ワウフラッターとは」音楽用語としての「ワウフラッター」の意味などを解説

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