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ヴォカリーズ

Posted by Arsène

「ヴォカリーズ」について、用語の意味などを解説

ヴォカリーズ

vocalise(仏)

ヴォカリーズとは次のような意味を持つ。

(1)母音唱法。歌詞や階名を用いず、母音で発音して歌う事。

(2)母音唱法で歌われる歌曲。

ヴォカリーズの定義と母音発声における音響構造的特徴

ヴォカリーズは、特定の歌詞(言語テキスト)を伴わず、母音(「あ」や「お」など)のみによって歌唱される声楽技法、ならびにその形式によって作曲された器楽的な声楽曲の総称である。音響物理的な観点において、子音による瞬間的な音響の遮断や破裂音が存在しないため、声帯の純粋な周期振動と声道全体の共鳴特性(フォルマント)が途切れることなく空間へ放射される。旋律線そのものの起伏や倍音成分の微細な推移、滑らかなレガートが直接的に聴き手の知覚へと届くため、人間の声を純粋な「管楽器」あるいは「弦楽器」と同等のアコースティックな音響体として扱う構造的特徴を持つ。

西洋声楽史における練習曲から芸術作品への昇華

歴史的に見ると、ヴォカリーズは18世紀半ば頃から声楽家の発声訓練や技巧習得を目的とした練習曲(ソルフェージュの発展形)として広く用いられた。しかし、19世紀末から20世紀初頭の近代音楽の時代に入ると、言語の具体的な意味から音を解放し、純粋な感情や音色そのものを表現するための高度な芸術形式へと発展した。セルゲイ・ラフマニノフの『ヴォカリーズ(作品34の14)』をはじめ、モーリス・ラヴェルの『ハバネラ形式のヴォカリーズ』やガブリエル・フォーレの作品など、多くの作曲家がこの形式を採用した。歌詞を持たない声が管弦楽やピアノと緻密に対位法的な対話を繰り広げる構造は、ロマン派から近代フランス音楽に至る旋律美の極致として高く評価されている。

演奏実践におけるベルカントの発声と身体的アプローチ

実際の演奏実践において、ヴォカリーズを十全に響かせるためには、極めて高度な呼吸の統制と声道の柔軟な制御が求められる。子音の助けを借りずに発声を持続させるため、呼気の圧力(アッポッジョ)を一定に保ちながら、母音の純度と豊かな響き(シンガーズ・フォルマント)を均一に維持する技術が必要となる。また、跳躍進行や半音階的パッセージにおいても音程(ピッチ)の正確さを保ち、過度な力みを排した自然なヴィブラートをコントロールする身体感覚が重要である。ホールの残響空間に対して自らの声を楽器のように共鳴させ、旋律のディナーミクやアゴーギク(微細なテンポの揺らぎ)を繊細に描き出す能力が歌い手に要求される。

近現代音楽および多様なジャンルにおける声の器楽的拡張

20世紀以降の現代音楽やポピュラー音楽の領域においても、ヴォカリーズが提示した「言葉を超えた声の表現」は多様な形で拡張されている。現代音楽においては、エイトル・ヴィラ=ロボスの『ブラジル風バッハ第5番』のアリアに見られるような民族的情緒の融合から、ルチアーノ・ベリオらの前衛作品における極限の器楽的声楽技法に至るまで、声の可能性が探求された。さらに、ジャズにおけるスキャットや即興的なヴォーカリーズ、現代の映画音楽における壮大なコーラスやソロ・ヴォイス、さらにはDTMにおけるボーカル・サンプリング音源の活用に至るまで、言語の枠組みを超えて音響空間に直接訴えかける表現手法として重要な役割を担い続けている。

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