音楽用語

音楽用語集 音楽用語辞典

メリスマ

Posted by Arsène

「メリスマ」について、用語の意味などを解説

メリスマ

melisma(ギ)

メリスマ(melisma)とは、歌詞の1節ごとに多数の音符が割り当てられる、表情豊かで装飾的な旋律。シラブルの対語。

譜面上では文字の末尾から下線を引いて表現する。

言葉を超える「歌」の翼――メリスマの定義

メリスマ(melisma)は、古代ギリシャ語で「歌」や「旋律」を意味する言葉に由来し、音楽用語としては「歌詞の一つの音節(シラブル)に対して、複数の音符を当てて歌うこと」を指す。対義語は「シラビック(Syllabic)」であり、こちらは「一音節に一音符」という、言葉の明瞭さを優先した歌い方である。

例えば、「アーメン(A-men)」と歌う際、「アー(A)」の部分で音程を上下させながら長く引き伸ばし、最後に「メン(-men)」と着地する場合、その「アー」の部分がメリスマである。楽譜上では、歌詞の母音が引き伸ばされていることを示すために、音節の後に長い横線(エクステンダー)が引かれるか、スラーで結ばれた多数の音符群として表記される。

聖なる陶酔 グレゴリオ聖歌とユビルス

西洋音楽史において、メリスマが最も重要な意味を持ったのは、中世のカトリック教会音楽、特にグレゴリオ聖歌においてである。聖歌の中には、特定の重要な単語(「Alleluia(アレルヤ)」や「Kyrie(キリエ)」など)に、数十個にも及ぶ音符が当てられている箇所が存在する。

これを当時の人々は「ユビルス(Jubilus/歓喜の歌)」と呼んだ。聖アウグスティヌスによれば、神に対する喜びや感謝の念があまりに大きくなったとき、人間の言葉(ロゴス)は限界を迎え、意味を持たない純粋な音の連なり(メリスマ)へと昇華されるのだという。つまり、メリスマとは単なる音楽的な装飾ではなく、言語による理性の枠を超えて、魂が神と直接交信するための「聖なる陶酔状態(トランス)」を音響化したものであった。

技巧の誇示とバロックの情動

ルネサンスを経てバロック時代(17〜18世紀)に入ると、メリスマの役割は「神への奉仕」から「人間の感情(アフェクト)の表現」および「歌手の超絶技巧(ヴィルトゥオジティ)の誇示」へと変化する。ヘンデルのオラトリオ『メサイア』や、当時のオペラ・アリアに見られる「コロラトゥーラ」と呼ばれる華麗なパッセージは、メリスマの極致である。

「Gloria(栄光)」や「Rejoice(喜べ)」といった単語に、長く複雑なメリスマを付与することで、その言葉が持つ感情的なエネルギーを増幅させる。同時に、カストラートなどのスター歌手たちは、正確な音程と驚異的な肺活量でこれらのメリスマを歌い切ることで、聴衆を熱狂させた。ここでは、メリスマは音楽的な「花火」としての機能を果たしていた。

現代のディーヴァたちへ R&Bにおける「フェイク」とメリスマ

20世紀後半以降、メリスマは黒人霊歌やゴスペルを経由して、ソウル、R&B、ポップスといった現代音楽の中に力強く息づいている。ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリー、ビヨンセといった「ディーヴァ(歌姫)」たちが聴かせる、自在に音程を上下させるテクニック(ラン、リフ、フェイクとも呼ばれる)は、現代におけるメリスマの正統な継承である。

彼女たちがバラードのサビで「I will always love you」の「You」を幾重にも装飾して歌い上げるとき、それは単に「あなた」という単語を伝えているのではない。その言葉の裏にある、万感の思いや、叫び出したいほどの情熱を、音の曲線に乗せて解き放っているのである。現代のポップスにおいて、メリスマは「歌の上手さ」の指標であると同時に、歌手の魂の震えをダイレクトに伝えるための最強の武器となっている。

シラビックとの対比が生むドラマ

楽曲の構成において、メリスマは常にシラビックな部分との対比によってその効果を発揮する。ラップ音楽のように言葉を畳み掛けるシラビックなパート(リズミックな緊張)があった後に、サビで伸びやかなメリスマ(メロディックな解放)が訪れることで、聴き手はカタルシスを感じる。

言葉を「伝える」ためのシラビックと、言葉を「超える」ためのメリスマ。この二つの歌唱法を使い分けることは、論理と感情、現実と夢の間を行き来することに他ならない。メリスマとは、重力に縛られた言葉が、音楽という翼を得て空へと飛翔する瞬間の奇跡そのものだと言えるだろう。

「メリスマとは」音楽用語としての「メリスマ」の意味などを解説

京都 ホームページ制作