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ラン奏法

Posted by Arsène

「ラン奏法」について、用語の意味などを解説

ラン奏法

run(英)

ラン奏法とは、ギター奏法のひとつ。

チョーキングハンマリング・オンプリング・オフなどのフィンガー・テクニックを駆使した奏法で3連、5連、3/4拍フレーズ、1拍半フレーズなどのフレーズ・パターンを何度も繰り返してスリルある演奏を生み出すのが特徴。

循環するエネルギー:ギターにおける「ラン奏法」の本質的定義

一般的に音楽用語としての「ラン(Run)」は、ある音域から別の音域へと急速に移動するスケール(音階)的なパッセージ全般を指す言葉である。ピアノや声楽においても、装飾的かつ流麗な速いフレーズを「ラン」と呼ぶが、ロックやブルースを基調とするエレクトリック・ギターの文脈において、この用語はより具体的で、かつ攻撃的なニュアンスを帯びた特定のテクニックを指す場合が多い。

この文脈における「ラン奏法」とは、数音からなる短いフレーズのブロック(細胞)を、高速で執拗に反復(リピート)させる演奏スタイルを指す。単にスケールを上下行するのではなく、チョーキング(ベンディング)、ハンマリング・オン、プリング・オフといったレガート技術を複合的に組み合わせ、円環を描くようにフレーズを回転させる。これにより、単なるメロディの提示を超えた、エンジンの回転数が上がっていくような物理的な「加速感」と「熱量」を聴き手に与えることが可能となる。ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトン、そしてエディ・ヴァン・ヘイレンといった歴代のギターヒーローたちは、ソロのクライマックスにおいてこの奏法を効果的に導入し、聴衆を熱狂の渦へと巻き込んできたのである。

ポリリズムが生み出す「スリル」の数学的構造

ラン奏法が聴き手に「スリル」や「切迫感」を与える最大の理由は、そのリズム構造にある。多くの場合、ラン奏法で用いられるフレーズは、3音、5音、あるいは7音といった奇数単位のグループで構成される。これを一般的な4/4拍子のビート(4音や8音のグリッド)上で反復させると、小節が進むごとにアクセントの位置がズレていく「ポリリズム的」な現象が発生する。

例えば、1小節(16分音符16個分)の中で「3音のフレーズ」を繰り返すとしよう。1拍目の頭で始まったフレーズは、2拍目の裏、3拍目のさらに裏…といった具合に、拍のグリッドに対して螺旋状にズレながら進行していく。この「拍節感の喪失」と「解決の遅延」が、聴き手の脳内に強烈な緊張感(テンション)を生み出すのである。 演奏者はこのズレをコントロールし、数小節後に訪れる強力なダウンビート(着地点)でピタリと解決させることで、ダムが決壊したようなカタルシスを演出する。つまり、ラン奏法とは単なる速弾きではなく、時間軸を歪ませ、聴衆の平衡感覚を揺さぶるための高度なリズム・トリックなのである。

フィジカルな側面:エコノミーと円運動

技術的な側面から見ると、ラン奏法は「効率化(エコノミー)」の極致である。高速でフレーズをループさせるためには、右手(ピッキング)と左手(フィンガリング)の無駄な動きを極限まで削ぎ落とさなければならない。多くのギタリストは、ダウンピッキングとアップピッキングを交互に行うオルタネイト・ピッキングだけでなく、ハンマリングやプリングを多用することで右手の負担を減らし、流れるような音の繋がり(レガート)を実現している。

特に、「ボックス・ポジション」と呼ばれる指板上の特定のブロック内で完結するラン奏法においては、左手の動きは非常にメカニカルなものとなる。薬指でチョーキングし、人差し指で弦を移動し、小指で高音をヒットするといった一連の動作が、あたかも機械のピストル運動のように正確に繰り返される。この時、演奏者の意識は個々の音符よりも、手のひら全体が描く「円運動の軌道」や「重心の移動」に向けられていることが多い。身体的な反復動作がトランス状態を誘発し、それがそのまま音の狂騒感となって表出する点において、ラン奏法は極めて肉体的な表現手法と言えるだろう。

現代における進化とコンテキストの拡張

1960年代から70年代にかけて確立されたペンタトニック・スケール主体のラン奏法は、80年代以降のテクニカル・ギターブームを経て、より複雑で洗練されたものへと進化した。イングヴェイ・マルムスティーンに代表されるネオ・クラシカル派は、ハーモニック・マイナー・スケールを用いた3弦スウィープやリニアなラン奏法を導入し、ヴァイオリン協奏曲のような構築美をロックギターに持ち込んだ。

さらに現代のフュージョンやプログレッシブ・メタルにおいては、4度堆積やホールトーン・スケールを用いた無機質なランや、意図的にリズムを分断するような変則的なランも多用されている。しかし、どのような音階やリズムが用いられようとも、ラン奏法の本質が「楽曲のエネルギーレベルを一気に引き上げる起爆剤」であることに変わりはない。 メロディアスな歌い回し(フレージング)から、突如として牙を剥くようなラン奏法への切り替え。この静と動のコントラストこそが、ギターソロという物語にドラマティックな起承転結を与えるための不可欠な演出技法である。

「ラン奏法とは」音楽用語としての「ラン奏法」の意味などを解説

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