リズムアンドブルース
「リズムアンドブルース」について、用語の意味などを解説

rhythm and blues(英)
リズムアンドブルース(rhythm and blues)とは、1940年代後半から50年代の黒人ポピュラー音楽。
ゴスペルの高揚感とリズムにブルースの哀愁をミックスしたスタイルを指す事が多い。レイ・チャールズなどの様なソロ歌手から、ドリフターズなどの様なヴォーカル・グループまでスタイルは様々。R&Bと略され、後にソウル・ミュージックに変化していく。
命名の政治学と「レース・ミュージック」からの解放
リズム・アンド・ブルース(R&B)という名称は、単なる音楽ジャンルの分類を超え、アメリカ音楽産業における人種意識の変革を象徴する言葉である。1940年代まで、アフリカ系アメリカ人によって演奏され、黒人層に向けて販売されるレコードは、ビルボード誌などの業界紙において「レース・ミュージック(Race Music)」という露骨に人種を強調したカテゴリーで括られていた。
1949年、ビルボード誌の記者であったジェリー・ウェクスラー(後にアトランティック・レコードのプロデューサーとして活躍)の提言により、この差別的な呼称は廃止され、より音楽的な実態に即した「リズム・アンド・ブルース」へと改称された。ここでの「リズム」はダンスミュージックとしての躍動感を、「ブルース」は黒人音楽の根底にある哀愁やリアリズムを指しており、都市化が進む黒人社会の新たなサウンドを包括的に定義する試みであった。この改称は、黒人音楽が単なる「人種の音楽」から、普遍的な芸術形式として認識されるための第一歩であったと言える。
構造的ハイブリッド:聖と俗の融合
音楽理論的な視点からR&Bの初期構造を分析すると、それは「ブルースの世俗性」と「ゴスペルの高揚感」の意図的な衝突(ハイブリッド)であることが分かる。従来の田舎のブルース(カントリー・ブルース)がアコースティックギター一本での弾き語りを主体としていたのに対し、都市型のR&Bは、ジャズ・ビッグバンドを縮小した「ジャンプ・ブルース」の編成(サックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムス)を基礎としている。
特筆すべきは、「バックビート(Backbeat)」の強調である。4/4拍子の2拍目と4拍目にスネアドラムによる強いアクセントを置くこのリズム構造は、聴衆をダンスフロアへと駆り立てる強力なエンジンとなった。また、教会音楽であるゴスペル由来の「コール・アンド・レスポンス(呼びかけと応答)」や、感情を揺さぶるメリスマ(一音節に複数の音程を当てる装飾的歌唱)を、世俗的な愛や欲望を歌うブルースに持ち込んだことは、当時の保守層からは「悪魔の音楽」と非難されるほどの革命的な冒涜であり、同時に若者たちを熱狂させる最大の魅力でもあった。
ロックンロールとの双子関係と分岐点
1950年代半ばにおいて、R&Bとロックンロールの境界線は極めて曖昧であった。チャック・ベリーやリトル・リチャードといった黒人アーティストの楽曲は、R&Bチャートとポップチャート(白人市場)の双方でヒットし、白人のDJアラン・フリードがそれらを「ロックンロール」と呼んで紹介したことで、人種の壁を越えたブームとなった。つまり、初期のロックンロールとは、白人向けにパッケージングされたR&Bの別名に過ぎなかったのである。
しかし、その後エルヴィス・プレスリーに代表される白人アーティストがギター主体のバンドサウンドを進化させていく一方で、R&Bはより洗練されたボーカル・ハーモニー(ドゥーワップ)や、管楽器や弦楽器を取り入れたソウル・ミュージックへと独自の進化を遂げていく。この分岐点は、R&Bが「黒人コミュニティのアイデンティティ」を保持し続けるための防衛本能的な回帰であったとも解釈できる。
ソウル、ファンク、そしてコンテンポラリーへの進化
1960年代に入ると、R&Bは「ソウル(Soul)」という精神的な呼称を獲得する。デトロイトのモータウン・レコードは、洗練されたポップなメロディと「ファンク・ブラザーズ」による鉄壁のリズムセクションで全米を席巻し、メンフィスのスタックス・レコードは、より泥臭く南部的なグルーヴで対抗した。ジェームス・ブラウンによる「ファンク(Funk)」の発明は、1拍目(The One)への強力なアクセントとポリリズムの導入により、R&Bのリズム概念を根底から覆した。
そして1980年代以降、ドラムマシン(TR-808など)やシンセサイザーの導入により、R&Bは「コンテンポラリーR&B」へと変貌を遂げる。テディ・ライリーが提唱した「ニュー・ジャック・スウィング」は、ヒップホップのビートとソウルフルな歌声を融合させ、現代R&Bの原型を作った。90年代のメアリー・J・ブライジらによる「ヒップホップ・ソウル」、2000年代のネオ・ソウル、そして現在のトラップ・ビートを取り入れたスタイルに至るまで、R&Bは常に時代の最新のテクノロジーとストリートの感覚を貪欲に取り込み、更新され続けている。
現代におけるR&Bの位相
今日におけるR&Bは、もはや単一のジャンルというよりも、あらゆるポピュラー音楽の基層(インフラ)となっている。EDMのドロップにおける高揚感も、K-POPの精緻なボーカルワークも、そのルーツを辿ればR&Bが築き上げた「歌とリズム」の方程式に行き着く。 しかし、どれほどサウンドが電子化されようとも、R&Bの核心にあるのは「人間の声」の力である。痛み、喜び、そして祈りを、リズムという器に乗せて届けること。そのエモーショナルな機能が変わらない限り、R&Bはポピュラー音楽の心臓として鼓動し続けるだろう。
「リズムアンドブルースとは」音楽用語としての「リズムアンドブルース」の意味などを解説
Published:2025/12/27 updated:
