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ルフラン

Posted by Arsène

「ルフラン」について、用語の意味などを解説

ルフラン

refrain(仏)

リフレイン。ルフラン。

ルフランとは、refrain(仏) リフレインのこと。

「砕く」ことによる「回帰」:語源が示す本質的機能

音楽用語としてのルフラン(Refrain)は、フランス語を経て定着した言葉だが、その語源はラテン語の「refringere(破壊する、砕く、押し返す)」にある。一見すると「繰り返し」という意味とは矛盾するように思えるこの語源は、ルフランの本質的な機能を鋭く言い当てている。

すなわち、ルフランとは物語や旋律の進行(Verse/Couplet)を一時的に「断ち切り」、定型的なフレーズへと強制的に引き戻す作用を持つ。川の流れを堰き止めて渦を作るように、直線的に進む時間軸を寸断し、円環的な時間を挿入する行為だ。聴き手は新しい情報(歌詞や展開)の連続による緊張から解放され、すでに知っているフレーズが「砕けて戻ってくる(Refract)」波のような反復に身を委ねることで、心理的な安定とカタルシスを得る。単なる繰り返しではなく、進行への抵抗としての反復こそがルフランの正体だ。

中世フランスの「定型詩」と集団的熱狂

歴史的に見ると、ルフランの起源は12世紀から13世紀の中世フランス、トルバドゥールやトルヴェールと呼ばれた吟遊詩人たちの歌曲に遡る。当時確立された「ヴィルレー」「バラード」、そして「ロンドー」といった定型詩(Formes fixes)において、ルフランは構造の核であった。

これらの形式では、独唱者(ソリスト)が物語を語る「クプレ(Couplet)」部分を歌い、その合間に聴衆や合唱隊が全員で「ルフラン(Refrain)」部分を合唱するというスタイルが一般的だった。これは、識字率が低かった時代において、聴衆が音楽に参加するための最も有効な装置として機能した。ソリストが新しい情報を発信し、集団がそれを共有・確認するというコール・アンド・レスポンスの構造は、音楽が鑑賞物ではなく、社会的な儀式や舞踏の伴奏であった時代の名残を留めている。

リトルネッロからロンドへ:器楽化された「繰り返し」

バロック時代に入ると、声楽におけるルフランの概念は器楽へと移植され、「リトルネッロ(Ritornello=小さな復帰)」という形式へと進化する。ヴィヴァルディの協奏曲に見られるように、オーケストラ全体(トゥッティ)が演奏する主題が、独奏楽器(ソロ)の技巧的なエピソードの合間に何度も回帰する構造だ。ここでは、ルフランは楽曲の柱(ピラー)としての役割を果たし、調性的な安定を保証するアンカー(錨)として機能する。

さらに古典派の時代には、これが洗練された「ロンド形式(Rondo Form)」として確立される。ハイドンやモーツァルトのフィナーレにおいて、主題(A)がエピソード(B, C)を挟んで何度も完全な形で戻ってくる構造は、まさにルフランの美学の頂点と言える。器楽曲においても、「聴き慣れたメロディが帰ってくる喜び」は普遍的な快感原則であり、ソナタ形式のような弁証法的なドラマとは対照的な、円満で祝祭的な時間を創出するために不可欠な要素だった。

「サビ」の起源としてのルフラン

現代のポピュラー音楽、特にJ-POPにおいて重要視される「サビ(Chorus)」は、構造的にも機能的にもルフランの直系の子孫と言える。英語圏のポピュラー音楽構成である「ヴァース(Verse)‐コーラス(Chorus)」形式において、コーラス部分は楽曲のメッセージを集約し、最も盛り上がる部分として設計されるが、これこそが現代版のルフランに他ならない。

興味深いのは、日本の歌謡曲やJ-POPにおける「サビ」が、欧米の「Chorus」以上に情緒的な爆発力を求められる点だ。Aメロ、Bメロで淡々と状況や心情を描写し、サビ(ルフラン)で一気に感情を解放するという構造は、中世のバラード形式が持っていた物語性と抒情性の対比を、現代的な音響の中で再演しているとも解釈できる。何度でも繰り返したくなる、口ずさみたくなる「フック(Hook)」としての旋律の強度が、楽曲のヒットを左右する決定打となる構造は、数世紀にわたり変わることのない音楽の大原則だ。

記憶の栞としての心理的効果

なぜ人間はルフランを求めるのか。それは音楽が時間芸術であり、過ぎ去った音は二度と戻らないという宿命に対する、記憶の抵抗手段だからだ。長い楽曲の中で、唯一確実に戻ってくるルフランは、聴き手にとっての「道標」あるいは「栞」となる。

複雑に転調する展開部や、技巧的なソロ・パートで迷子になりかけた意識は、ルフランの最初の数音が鳴り響いた瞬間に現在地を把握し、安堵する。この「予期した通りに予期したものが来る」という報酬系への刺激こそが、音楽を聴く喜びの根源的な部分を支えている。シューベルトの歌曲における悲劇的なルフランであれ、ダンスミュージックにおける高揚するルフランであれ、それは時間の不可逆な流れの中に打ち込まれた杭であり、我々はその杭に捕まることで、刹那的な音の芸術の中に永遠性を感じ取ることができる。

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「ルフランとは」音楽用語としての「ルフラン」の意味などを解説

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