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レコーディング

Posted by Arsène

「レコーディング」について、用語の意味などを解説

レコーディング

recording(英)

レコーディング=録音。狭い意味では、素材となる音をMTR(マルチトラックレコーダー)に録音する事。歌声や楽器演奏をマイクロフォンにより電気信号に変換した上で録音する方式である電気録音の他、機械的振動のままレコード原盤に刻み込む方式であるアコースティック録音といった方式がある。

「記録」から「創造」へ レコーディングの概念史

レコーディング(Recording)とは、広義には音響振動を記録媒体に固定化する行為全般を指すが、現代の音楽制作の文脈においては、単なる「記録」の範疇を遥かに超えた、極めて創造的かつ技術的なプロセスを意味する。エジソンが蓄音機を発明した当初、レコーディングは「その場にある音をそのまま保存する」というドキュメンタリー的な性格を持っていた。演奏者たちは巨大な集音ラッパに向かって一斉に演奏し、その物理的な振動が直接ワックス盤やSP盤に刻まれた。そこには後からの編集や修正の余地はなく、演奏のダイナミクス(強弱)やバランスは、演奏者自身の物理的な位置取りによって制御されていたのである。

しかし、マイクロフォンの発明による電気録音の登場、そして磁気テープによるマルチトラック・レコーディング(MTR)の普及を経て、レコーディングは「時間を操作し、現実には存在しない音響空間を構築する」芸術表現へと進化した。ビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』に象徴されるように、スタジオは単なる記録場所から、それ自体が巨大な「楽器」へと変貌を遂げたのである。

音を捕まえる芸術:マイクロフォンと空間の魔術

レコーディングの品質を決定づける最初の、そして最も重要な段階は、空気振動を電気信号に変換する「トランスデューサー(変換器)」としてのマイクロフォンの選定と配置(マイキング)である。マイクには、耐久性に優れパワフルな音像を持つ「ダイナミック型」、繊細な高域と速い反応速度を持つ「コンデンサー型」、そして滑らかでヴィンテージな温かみを持つ「リボン型」など、明確な個性(キャラクター)が存在する。

エンジニアは、楽器の特性や楽曲のジャンルに合わせて最適なマイクを選び出し、ミリ単位で位置を調整する。音源の至近距離にマイクを立てる「オンマイク」は、音の輪郭を明確にし、迫力を生み出すが、同時に楽器本来の響きや空気感を損なうリスクもある。対して、離れた位置に立てる「オフマイク(アンビエンスマイク)」は、部屋の鳴り(ルーム・アコースティック)を取り込み、サウンドに奥行きと自然な広がりを与える。この「直接音」と「間接音」のブレンド比率こそが、リスナーが感じる空間の広さや質感を決定する。ドラムの録音において、キックやスネアを狙うマイクと、キット全体を俯瞰するオーバーヘッドマイク、そして部屋の鳴りを拾うルームマイクを巧みに位相(フェイズ)管理しながらミックスすることは、まさに音の建築学と言えるだろう。

時間軸の支配:マルチトラック・レコーディングの革命

1950年代以降に一般化したマルチトラック・レコーディングは、音楽制作のプロセスを劇的に変化させた。テープ(後にはハードディスク)を複数のトラック(帯)に分割し、ドラム、ベース、ギター、ボーカルといった各パートを個別に、あるいは異なる時間に録音することを可能にしたのである。これにより、「オーバーダビング(重ね録り)」という手法が確立された。一人のミュージシャンが全ての楽器を演奏して重ねたり、複雑なコーラスワークを一人で構築したりすることが物理的に可能となった。

さらに重要なのは、失敗した箇所だけを録音し直す「パンチイン / パンチアウト」の技術である。これにより、演奏者は完璧なテイクが録れるまで何度でも挑戦することが許されるようになった。しかし、これは同時に「一回性の緊張感」や、バンド全員が一斉に音を出した時に生じる独特の「グルーヴの揺らぎ(インタープレイ)」を犠牲にする側面も持っている。現代のレコーディングにおいては、クリック(メトロノーム)に合わせてバラバラに録音し、後から編集でタイミングをジャストに修正することが常態化しているが、あえて「せーの」で録る一発録り(ライブレコーディング)の手法が見直されているのは、そこに人間的な熱量が宿るからに他ならない。

現代の錬金術:DAWとシグナルチェーンの構築

21世紀のレコーディング環境は、DAW(Digital Audio Workstation)を中心としたコンピュータベースのシステムが主流である。ここでは、かつて巨大なコンソールとテープレコーダーが行っていた作業のほぼ全てが、ソフトウェア上で完結する。しかし、デジタル全盛の時代にあっても、アナログ機材の重要性は失われていない。むしろ、デジタルの冷たさを補完するために、入り口となる「アナログ・フロントエンド」への拘りは一層強まっている。

マイクから入った微弱な信号をラインレベルまで増幅する「マイクプリアンプ」、音のダイナミクスを整え密度を高める「コンプレッサー」、周波数バランスを調整する「イコライザー(EQ)」といったアナログのアウトボード機器を通すことで、音に電気的な「倍音(サチュレーション)」や「色気」を付加する。これを最高品位のADコンバーター(アナログ-デジタル変換器)でデジタル信号に変換し、DAWに取り込む。この一連の流れ(シグナルチェーン)をどう構築するかが、プロフェッショナルなサウンドの分水嶺となる。

また、DAW内部では、波形編集によるタイミング修正やピッチ補正ソフト(Auto-TuneやMelodyneなど)を用いたボーカル編集が、ピクセル単位の精密さで行われる。複数のテイクから良い部分だけを繋ぎ合わせる「コンピング(Comping)」は、理想の歌唱を作り上げる強力な武器となるが、過剰な編集は演奏者の個性を奪い、ロボットのような無機質な音楽を生み出す危険性(フランケンシュタイン化)と背中合わせである。

心理戦としてのスタジオワーク:エンジニアの隠れた役割

技術的な側面だけでなく、レコーディング現場における心理的なマネジメントも、優れた作品を残すための不可欠な要素である。レコーディングスタジオという密室空間は、ミュージシャンにとって極度のプレッシャーがかかる場所である。「録音されている」という意識は、時に演奏を萎縮させ、本来のパフォーマンスを阻害する。

優れたレコーディングエンジニアやプロデューサーは、単に機材を操作するだけでなく、ミュージシャンの精神状態を常にモニターし、リラックスさせ、あるいは適度な緊張感を与えて鼓舞するコーチのような役割を果たす。ブースの照明を落として没入感を高めたり、ヘッドフォンモニターのバランス(特に自分の声のリバーブ量など)を演奏しやすいように細かく調整したりする配慮は、マイクの選定と同じくらい重要である。「良い音」で録ることは技術の領域だが、「良い演奏」を引き出すことは人間力の領域であり、名盤と呼ばれる作品の背後には、必ずこうしたスタジオ内の信頼関係が存在している。

未来への展望 空間と場所の解放

ネットワーク技術の進化により、レコーディングは場所の制約からも解放されつつある。遠隔地にいるミュージシャン同士がリアルタイムでセッションを行い、データをクラウド上で共有しながら制作を進める「リモートレコーディング」は、パンデミック以降、標準的な選択肢の一つとなった。また、イマーシブオーディオ(立体音響)の普及に伴い、従来のステレオ(2ch)録音だけでなく、天井や後方のスピーカーを含む360度の音場を想定したマイキングやミキシング技術も求められている。

技術がいかに進化しようとも、レコーディングの本質は「空気の振動に込められた感情を捕まえ、未来へ届ける」ことにある。

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「レコーディングとは」音楽用語としての「レコーディング」の意味などを解説

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