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レッジェーロ

Posted by Arsène

「レッジェーロ」について、用語の意味などを解説

レッジェーロ

leggero,leggiero(伊)

レッジェーロ=軽く。軽い。軽快に。音楽用語としては「leggiero」と表記されるが、これは「leggero」の古語表記である。レジェーロ。レジェロ。

発想記号(発想標語、曲想標語)のひとつ。

物理的重力の否定と「真珠」のメタファー

レッジェーロ(Leggiero)は「軽く」と訳されるが、これは単に「弱く弾く」ことや「力を抜く」ことと同義ではない。音楽における「軽さ」とは、物理的な重力に抗う能動的なエネルギーの発露である。特にピアノ演奏において、この概念はしばしば「ジュ・ペルレ(Jeu perlé=真珠のような演奏)」というフランス的な美学と結びつけられる。

真珠の首飾りの糸が切れて、粒が床に散らばる様を想像してほしい。一つ一つの真珠は独立した個体としての重みと硬度を持ちながら、軽やかに転がっていく。レッジェーロのタッチも同様に、一音一音が極めて明瞭な輪郭(アーティキュレーション)を持ちつつ、全体としては流れるような軽快さを保持していなければならない。音がぼやけたり、隣の音と不必要に粘着したりすることは許されない。つまり、レッジェーロとは「音の質量の軽減」ではなく、「音の密度の凝縮」と「接触時間の短縮」によって達成される高度な音響的イリュージョンなのである。

鍵盤の深さと「浅いタッチ」の逆説

構造上、ピアノの鍵盤は約10mmの深さ(ストローク)を持っている。通常、豊かで重厚な音を出すためには、鍵盤の底までしっかりと重みを乗せることが基本とされる。しかし、レッジェーロにおいては、この常識を覆す「浅いタッチ」が要求される場合がある。

鍵盤が底に着く直前、ハンマーが弦に向かって放たれる瞬間のポイント(エスケープメント)を鋭敏に捉え、指先だけでそのエネルギーを制御する。腕や肩の重さを鍵盤に乗せるのではなく、むしろ鍵盤の上数ミリの空間で指を遊ばせるような感覚が必要となる。しかし、ここには逆説がある。音が「軽く」聞こえるためには、指先の筋肉は極めて強靭で、バネのように俊敏でなければならない。脱力しただけのふにゃふにゃの指では、明瞭なレッジェーロは生まれず、単なる「弱々しい音」になってしまう。この「筋力に支えられた軽さ」こそが、習得の最大の障壁となる。

スタッカートとの概念的相違

多くの学習者が混同しやすいのが、スタッカート(音を切る)とレッジェーロの関係である。確かにレッジェーロのパッセージは、ノン・レガートや軽いスタッカートで演奏されることが多い。しかし、スタッカートが「音の長さ(Duration)」を規定する用語であるのに対し、レッジェーロは「音の重さ(Weight)」と「性格(Character)」を規定する用語であるという決定的な違いがある。

例えば、重々しく激しいスタッカート(マルカートに近いもの)は存在するが、それはレッジェーロではない。逆に、音が完全には切れていないポルタートに近い状態であっても、それが羽毛のような軽やかさを持っていれば、それはレッジェーロと呼びうる。ショパンの『ノクターン』や『即興曲』に見られる装飾的な走句は、ペダルを使って響きを繋げつつも、タッチそのものはレッジェーロでなければならない。ここでは、音響的には繋がっていても、指先の感覚としては一音一音が離陸している必要があるのだ。

モーツァルトからショパンへ:様式の変遷

歴史的に見ると、レッジェーロの理想形は楽器の進化と共に変化してきた。モーツァルトやハイドンの時代、ピアノの前身であるフォルテピアノやチェンバロは、現代のピアノに比べて鍵盤が浅く軽かったため、レッジェーロは楽器本来の特性に即した自然な奏法であった。ここでは、「話すような」明瞭さと、快活な躍動感が重視された。

一方、ロマン派の時代になり、ピアノが重厚な鉄製フレームと深い鍵盤を持つようになると、レッジェーロの意味合いは変化する。リストやショパンの作品におけるレッジェーロ(例えばリストの『小人の踊り』)は、巨大化した楽器の重さを否定し、重力から解放された幻想的な世界を描くための「特殊効果」となった。それはもはや自然な軽さではなく、人間離れした技巧によって演出される、魔術的な浮遊感である。

管弦楽における「浮遊」の構築

オーケストラにおいてレッジェーロが指定された場合、それは奏者全員に対する「集合的な飛翔」の命令となる。メンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』のスケルツォは、管弦楽におけるレッジェーロの究極の模範である。

弦楽器奏者は、弓を弦の上で跳ねさせるスピッカートやソティエといった運弓法を駆使し、擦る音(松脂のノイズ)を最小限に抑え、純粋な弦の振動のみを取り出す。木管楽器は、ダブルタンギングなどの技巧を用いて、小鳥のさえずりのような粒立ちの良いパッセージを奏でる。ここでは、80人以上の人間が音を出しているにもかかわらず、まるで重さがないかのような透明なテクスチュアを作り出すことが求められる。低音楽器(コントラバスやチューバ)でさえも、象が踊るような重苦しさを消し去り、爪先立ちで歩くような繊細なコントロールが必要となる。

「レッジェーロとは」音楽用語としての「レッジェーロ」の意味などを解説

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