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ローマ楽派

Posted by Arsène

「ローマ楽派」について、用語の意味などを解説

ローマ楽派

Roman School(英)

ローマ楽派とは、16世紀後半にローマで活躍した宗教音楽の作曲家の楽派。

ア・カペラの教会音楽を特徴とする。フランドル楽派のポリフォニー音楽の影響を受け、イタリアで独自の音楽様式が形成され登場した。代表的作曲家にパレストリーナ。

対抗宗教改革の音楽的防波堤

ローマ楽派を理解する上で不可欠なのは、当時の政治的かつ宗教的な背景である16世紀の「対抗宗教改革(Counter-Reformation)」である。プロテスタントの台頭に対し、カトリック教会は自らの威信と正統性を回復する必要に迫られていた。その具体的指針が示された「トレント公会議(Council of Trent)」において、教会音楽は重大な岐路に立たされていた。

当時のフランドル楽派由来のポリフォニー(多声音楽)は、あまりに複雑な対位法を駆使しすぎたため、聖なる言葉(歌詞)が聴き取れない状態に陥っていた。教会内には「いっそポリフォニーを禁止し、単旋律聖歌に戻すべきだ」という過激な意見さえあった。この危機に対し、ローマ楽派、とりわけジョヴァンニ・ピエルルイジ・ダ・パレストリーナは、ポリフォニーの美しさを維持しつつ、歌詞の明瞭さを損なわない洗練された様式を提示することで応えた。つまり、ローマ楽派とは単なる地域の作曲家集団ではなく、カトリックの精神的中心地であるローマが世界に示した「教会音楽のあるべき姿」を具現化したイデオロギー的集団であったと言える。

「パレストリーナ様式」という絶対規範

ローマ楽派の音楽的特徴は、しばしば「パレストリーナ様式(Stile Palestrina)」という言葉で総称される。その核心は「アルス・ペルフェクタ(Ars Perfecta=完璧な技法)」とも呼ばれる、極めて均衡の取れた対位法にある。

ここでは、旋律は滑らかな順次進行(隣り合う音へ進むこと)を基本とし、跳躍進行を行った後には必ず反対方向へ戻るという厳格なルールによって、旋律の荒々しさが制御されている。また、不協和音の使用は厳しく制限され、準備と解決のプロセスを経た経過音や掛留音としてのみ許容された。この徹底した「音響の浄化」により、ローマ楽派の音楽は、人間の感情的な激情ではなく、天上的で永遠に続くような「神秘的な平穏」を表現することに成功した。この様式は、後の時代のフックスの著書『グラドゥス・アド・パルナッスム』を通じて体系化され、ベートーヴェンから現代の音楽学生に至るまでが学ぶ「厳格対位法」の基礎となっている。

システィーナ礼拝堂と「ア・カペラ」の伝統

ローマ楽派が器楽伴奏を伴わない「ア・カペラ(A cappella=礼拝堂風に)」を理想とした背景には、ローマ教皇のお膝元であるシスティーナ礼拝堂の伝統が深く関わっている。当時の他の教会、特にヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂などでは、オルガンや金管楽器が華やかに使用されていたが、システィーナ礼拝堂では伝統的に楽器の使用が制限されていた。

この制約こそが、人間の声だけで構築される究極のポリフォニーを生み出す土壌となった。楽器による音色の補強に頼ることができないため、作曲家たちは各声部の独立性と、それらが重なった時の和声的な充実感を極限まで追求せざるを得なかったのである。また、この高音域のパートを維持するために、ファルセット歌手(カウンターテナー)や、後の時代にはカストラート(去勢歌手)が重用されたことも、ローマ楽派の特異な音響空間を形成する要因となった。

ヴェネツィア楽派との対照性:線か色彩か

同時代のイタリアにおいて、ローマ楽派と鮮やかな対比をなすのがヴェネツィア楽派である。ガブリエリなどが活躍したヴェネツィアでは、聖堂の構造を利用した「複合唱(コリ・スペッツァーティ)」や、管楽器を多用した色彩豊かでステレオフォニックな音響が好まれた。

ヴェネツィアが「垂直的な和音の響き」と「劇的な対比」を志向したのに対し、ローマはあくまで「水平的な旋律の線」と「継続的な流れ」を重んじた。ヴェネツィアのスタイルが後のバロック的な協奏曲やオペラへと繋がる「進歩的」な道であったとすれば、ローマのスタイルは過去の遺産を純化し守り抜く「保守的」な道であった。しかし、この保守性こそが、宗教音楽に求められる普遍性や威厳と合致し、何世紀にもわたって「カトリック音楽の正統」として君臨する力となったのである。

「古様式」としての生き残り

17世紀に入り、モンテヴェルディらによって「第二作法(Seconda Pratica)」と呼ばれる、歌詞の表現のために不協和音を大胆に用いるバロック様式が主流となっても、ローマ楽派の精神は「第一作法(Prima Pratica)」あるいは「古様式(Stile Antico)」として生き続けた。

新しいオペラや世俗音楽が感情を露わにする一方で、教会の中では依然としてパレストリーナ風の厳格なポリフォニーが「神聖さの象徴」として書き継がれたのである。バッハの『ロ短調ミサ』の一部や、モーツァルトの宗教曲にもこの様式の模倣が見られるように、ローマ楽派が確立した美学は、特定の時代の一様式を超えて、「宗教的な崇高さ」を喚起するための普遍的な音楽言語として、西洋音楽の深層に刻印され続けている。

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「ローマ楽派とは」音楽用語としての「ローマ楽派」の意味などを解説

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