木琴
「木琴」について、用語の意味などを解説

xylophone(英・仏)
木琴(もっきん)とは、調律した木製の音板を鍵盤の様に音階順に並べバチで打奏する楽器。
多くは音板の下に共鳴筒を持ち、ローズ・ウッドなどの硬い木が使われ、音質や音程を調整するために下側が弓形に削られている。シロフォン。正しくは(ザイロフォン)と発音。鍵盤打楽器のひとつ。
「枯れた木」が歌う生命の逆説 木琴の深層
木琴(Xylophone/シロフォン)は、ギリシャ語の「xylon(木)」と「phone(音)」を語源とし、最も原初的な「叩く」という行為を、洗練された音階へと昇華させた楽器である。人類が石や骨を叩いてリズムを刻んでいた時代から、調律された木片(音板)を並べて旋律を奏でるようになるまでには、長い歴史的熟成が必要であった。
木琴の音色は、ピアノやヴァイオリンのような「持続する艶やかさ」とは対極にある。それは「硬質で、乾いた、減衰の早い」音である。しかし、この一見ネガティブな音響特性こそが、木琴を他のどの楽器とも異なる、鋭利でアイロニカルな表現者たらしめている。湿り気を帯びた感情表現を拒絶し、カチカチという即物的な打撃音(アタック)によって、音楽にユーモアやグロテスクなリアリズムを持ち込むことができる唯一無二の存在なのである。
シロフォンとマリンバ:似て非なる兄弟
一般的に「木琴」と一括りにされがちだが、クラシック音楽の現場において、シロフォン(Xylophone)とマリンバ(Marimba)は明確に区別されるべき別種の楽器である。その決定的な違いは、音域の広さだけでなく、調律における「倍音構成」にある。
シロフォン: 音板の裏側を浅く削ることで、基音に対して「3倍音(1オクターブ+完全5度上)」が強く鳴るように調律されている(またはオクターブ上の場合もあるが、鋭い成分が強調される)。これにより、オーケストラの大音量の中でも埋もれない、貫通力のある輝かしい(あるいは耳をつんざくような)音色が生まれる。
マリンバ: 音板の裏側を深く、アーチ状に削ることで、基音に対して「4倍音(2オクターブ上)」が鳴るように調律されている。これにより、オルガンのように柔らかく、豊かで深い共鳴音が得られる。
つまり、シロフォンが「骨」の響きであるなら、マリンバは「肉」の響きである。作曲家はこの特性を熟知し、鋭いリズムやグロテスクな効果を狙うときはシロフォンを、叙情的な旋律や温かい和声を求めるときはマリンバを指定する。
「死の舞踏」と骸骨の踊り
シロフォンをオーケストラにおける「死の象徴」として定着させたのは、カミーユ・サン=サーンスの交響詩『死の舞踏』である。真夜中の墓場で骸骨たちが踊り出す場面において、シロフォンの乾いた「カタカタ」という音色は、骨と骨がぶつかり合う音を完璧に模倣した。
この用法は、後にマーラーの交響曲第6番『悲劇的』や、ショスタコーヴィチの諸作品にも受け継がれている。これらの作品において、シロフォンは甘美なロマンティシズムを冷笑し、死の必然性や、空虚なパロディを提示する「道化(トリックスター)」としての役割を演じている。美しい旋律の裏で鳴り響くシロフォンの硬質な音は、メメント・モリ(死を想え)の警鐘のように、聴き手の無意識を刺激する。
民族的ルーツと進化の旅路
木琴の起源は、東南アジアやアフリカにあるとされる。特にアフリカの「バラフォン(Balafon)」は、音板の下に瓢箪(ひょうたん)を共鳴器として取り付けた構造を持ち、現代のマリンバの直接的な祖先と言える。
これらの民族楽器が奴隷貿易などを通じて中南米へ渡り、マリンバとして大型化・改良された後、アメリカで現代的なコンサート楽器としての地位を確立した。一方、ヨーロッパに渡ったシロフォンは、当初は「ストロー・フィドル(藁のヴァイオリン)」と呼ばれ、旅芸人の楽器として扱われていたが、19世紀後半に改良が進み、オーケストラの一員として迎え入れられた。この「土着的な起源」と「近代的な改良」の融合が、木琴族の持つ野性味と洗練された機能性の同居を生み出している。
ローズウッドの枯渇と「音」の危機
最高級の木琴(シロフォン、マリンバ共に)の音板には、ホンジュラス・ローズウッド(紫檀)という希少な木材が使用される。極めて硬く、密度が高いため、澄んだ余韻と強力なアタックを生み出すことができる。しかし、乱伐による絶滅の危機に瀕しており、ワシントン条約による規制対象となっている。
これに伴い、近年ではFRP(繊維強化プラスチック)や炭素繊維(カーボンファイバー)を用いた合成素材の音板(例えば「アコースタロン」など)が開発され、普及している。合成素材は湿度や温度の変化に強く、野外演奏や過酷なツアーには適しているが、天然木特有の「複雑な倍音の揺らぎ」や「温かみ」を完全に再現することは難しいという議論も絶えない。現代の奏者は、環境保護と音響的理想の狭間で、新たな「木琴の音」を模索し続けている。
超絶技巧のその先へ
かつては2本のマレット(撥)で単純な旋律を叩くだけだった木琴奏法は、現代において驚異的な進化を遂げた。片手に2本ずつ、計4本(あるいは6本)のマレットを操り、ピアノのような和音伴奏と旋律を一人で同時に演奏するスタイルが標準化している。
安倍圭子などの現代マリンバ奏者/作曲家によって、木琴は単なる「効果音」や「旋律楽器」の枠を超え、独奏楽器としての芸術性を極限まで高められた。現代の木琴音楽は、打撃の瞬発力と、トレモロ奏法による持続音の美しさを自在に行き来し、打楽器でありながら弦楽器のような歌心を持つ、ハイブリッドな芸術表現へと到達している。
「木琴とは」音楽用語としての「木琴」の意味などを解説
Published:2025/12/27 updated:
