音楽用語

音楽用語集 音楽用語辞典

練習曲

Posted by Arsène

「練習曲」について、用語の意味などを解説

練習曲

etude(仏)

練習曲=エチュード。楽器や歌の演奏技巧を修得するための楽曲や、技巧を誇示する演奏会用楽曲。楽曲によって修得を目指す演奏技巧が特定されている。

機械的訓練から芸術作品への昇華

音楽史においてエチュードという言葉は、大きく二つの意味を含んでいる。一つはクレメンティやツェルニー、ハノンに代表されるような、純粋にメカニック(指の運動機能)を開発するための「教育的実用譜」である。これらは特定の音型(スケール、アルペジオ、トリルなど)を反復させ、指の独立性や均等性を高めることを主眼としている。ここでは、音楽的な感動よりも、生理学的なトレーニングとしての効率性が優先される。

しかし、19世紀ロマン派の到来と共に、エチュードは劇的な進化を遂げる。その画期となったのがフレデリック・ショパンである。彼の『12の練習曲 Op.10 & Op.25』は、特定の技術的課題(例えばOp.10-1なら右手の拡張、Op.10-12『革命』なら左手の激しいパッセージ)を扱いながらも、それを無味乾燥な指の運動に終わらせず、深遠な詩情とドラマを持つ芸術作品へと昇華させた。これ以降、エチュードは「練習室のための音楽」から「コンサートホールのための音楽」へとその活動領域を拡張し、「演奏会用練習曲」という新たなジャンルを確立した。

「指の独立」という終わりのない探求

エチュードが扱う最大のテーマは、人体構造と楽器構造の間の齟齬を解消することにある。特にピアノにおいて、人間の手は親指が太く短く、薬指と小指は弱く連携して動いてしまうという生理的な「不平等」を抱えている。これに対し、鍵盤楽器は全てのキーが等しい重さと深さを持って並んでおり、演奏者には「全ての指を平等に扱う」ことが要求される。

この矛盾を解決するために、多くの作曲家が独自の課題を設定した。シューマンの『パガニーニの奇想曲による練習曲』やブラームスの『51の練習曲』などは、不自然な指の配置やリズムを強いることで、脳と神経系の回路を書き換えようとする試みである。また、ドビュッシーの『12の練習曲』における「5本の指のために(ツェルニー氏による)」のように、過去の機械的な練習曲を皮肉りつつ、5本の指の独立性を現代的な和声感覚の中で再定義しようとする作品も生まれた。エチュードとは、作曲家が奏者の肉体に対して突きつける、一種の生理学的挑戦状とも言えるだろう。

超絶技巧の時代と悪魔的魅力

19世紀半ば、フランツ・リストとニコロ・パガニーニの登場は、エチュードをヴィルトゥオーゾ(超絶技巧演奏家)のためのショーケースへと変貌させた。リストの『超絶技巧練習曲』は、当時のピアノの性能向上(鉄製フレームによる張力の強化やアクションの改良)を背景に、オクターブの連打、跳躍、トレモロといったオーケストラ的な響きをピアノ一台で再現することを求めた。

ここでは、技術的な困難さそのものが表現の核となっている。奏者が極限の難易度と格闘し、汗を流してそれを克服する姿そのものが、ロマン派的な「英雄性」や「悪魔的魅力」として聴衆を熱狂させた。パガニーニの『24の奇想曲』がヴァイオリン奏法に革命をもたらしたのと同様に、リストのエチュードはピアノ奏法の限界を押し広げ、肉体の限界を超越することへの憧れを音楽化したのである。

音楽的課題としてのエチュード

20世紀に入ると、エチュードの課題は「指の速さ」から「音色やリズムの制御」へとシフトしていく。スクリャービンのエチュードは、複雑なポリリズムや、極端に広い音域を行き来する左手の動きの中で、いかに官能的で色彩豊かな音色を引き出すかが問われる。ラフマニノフの『音の絵』においては、エチュードでありながら具体的な情景描写(標題音楽的要素)が強く求められ、技術は完全に表現の手段として奉仕することが期待される。

さらに、バルトークの『ミクロコスモス』のように、初心者向けの練習曲でありながら、現代音楽の語法(不協和音、変拍子、旋法など)を段階的に習得させるための教育的システムとして設計された作品群も存在する。ここでは、指を鍛えること以上に、「新しい響きに対する耳を開く」ことが最重要の課題となっている。

現代における実験場としての機能

現代音楽において、エチュードは作曲家にとっての実験室としての役割を果たしている。リゲティ・ジェルジュの『ピアノのための練習曲』は、ショパンやリストの系譜を継ぎつつも、そこにカオス理論やフラクタル幾何学のような数学的概念を持ち込んだ。人間には演奏不可能と思われるような複雑なリズムのズレや、知覚の限界に挑むような高速パッセージは、もはや指の訓練を超えて、人間の認知能力の拡張を迫るものである。

カプースチンの『8つの演奏会用練習曲』のように、ジャズのイディオム(語法)をクラシックの厳格な形式の中に封じ込めた作品も人気を博している。これらは、スウィング感や即興的なグルーヴを楽譜通りに再現するという、クラシック奏者にとっては未知の技術的課題を課すものである。このようにエチュードは、いつの時代においても、その当時の「演奏不可能」を「可能」にするための最前線の開拓地として、音楽の進化を牽引し続けているの。

Category : 音楽用語 れ
Tags :

「練習曲とは」音楽用語としての「練習曲」の意味などを解説

京都 ホームページ制作