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ラメント

Posted by Arsène

「ラメント」について、用語の意味などを解説

ラメント

lament(英)

ラメント(lament)とは、音楽用語としては、次のような意味を持つ。

(1)死者を悼む音楽の総称。

(2)嘆きの音楽。モンテヴェルディの「アリアンナの嘆き」が有名。

魂の慟哭 ラメントの定義と歴史的系譜

ラメント(Lament)という言葉は、ラテン語の「lamenta(泣き叫ぶ、嘆く)」を語源とし、音楽用語としては単なる悲しみの表現を超え、死者への哀悼や、抗いがたい運命に対する痛切な嘆きを形式化した楽曲を指す。詩的な哀歌を意味する「エレジー(Elegy)」としばしば混同されるが、エレジーが悲しみを客観的あるいは回想的に歌う文学的な側面を持つのに対し、ラメントは、まさにその瞬間に流される涙や、抑制できない感情の噴出(クライシス)を現在進行形で描くという、より演劇的で身体的な性格を帯びている。

音楽史においてラメントが重要な意味を持つようになったのは、17世紀初頭のイタリア・バロック期である。それまでのルネサンス音楽が、複数の声部が調和するポリフォニー(多声音楽)によって神の秩序を描こうとしたのに対し、バロックの作曲家たちは「モノディ様式(単旋律唱)」を確立し、個人の感情(情念)をリアルに描写することを目指した。

その象徴的な夜明けとなったのが、クラウディオ・モンテヴェルディのオペラ『アリアンナ』の中で歌われる「アリアンナの嘆き」である。

「私を死なせて(Lasciatemi morire)」と歌われるこの曲は、愛する男に見捨てられた絶望を赤裸々に表現し、当時の聴衆を涙の海に沈めたと言われている。ここに、個人の「エゴ」としての悲しみが、初めて音楽の主題として正当な市民権を得たと言える。

悲しみのアルゴリズム ラメント・バスの魔力

専門的な視点からラメントを語る際、避けて通れないのが「ラメント・バス(Lament bass)」と呼ばれる構造的特徴である。これは、バス声部が主音から完全4度下まで、半音階的に下降していく音型(例:ラ→ソ♯→ソ♮→ファ♯→ファ♮→ミ)を指す。この「半音階的下降テトラコード」は、バロック時代において悲嘆を表すための絶対的な定型(トポス)として確立された。

なぜ下降する半音階が悲しみを誘うのか。それは、重力に逆らわずに崩れ落ちる身体の脱力感や、深い溜息の音調を模倣しているからだ。さらに、半音階に含まれる不協和音が、解決されない心の痛みを物理的な音の濁りとして提示する。

ヘンリー・パーセルのオペラ『ディドとエネアス』における「ディドの嘆き」は、この技法の最高傑作である。執拗に繰り返されるラメント・バスのオスティナート(固執低音)に乗せて、ソプラノが不規則なフレーズで悲しみを訴える構成は、逃れられない運命(バス)と、それに抗おうとする個人の意志(ソプラノ)の対比を見事に描き出している。

器楽への波及――トンボーと追悼の系譜

声楽から始まったラメントの精神は、やがて器楽音楽へと浸透し、独自の発展を遂げる。特に17世紀のフランスでは、リュートやクラヴサン(チェンバロ)のために、特定の人物の死を悼む「トンボー(Tombeau=墓石、墓碑)」というジャンルが流行した。フローベルガーやクープランといった作曲家たちは、偉大な師や友人の死に際し、アルマンドやパヴァーヌといった舞曲の形式を借りて、個人的な追悼の念を音に刻んだ。

これらの器楽曲におけるラメントは、声楽のような直接的な言葉を持たない分、より抽象的で瞑想的な性格を強める。不協和音の解決を遅らせる「掛留(サスペンション)」の多用や、リュート特有の分散和音(スタイル・ブリゼ)による儚い響きは、死者の魂との静かな対話や、不在の悲しみを噛みしめる残された者の内面を繊細に映し出す。この伝統は近代にも受け継がれ、モーリス・ラヴェルの『クープランの墓(Le Tombeau de Couperin)』は、第一次世界大戦で亡くなった友人たちへの追悼として、過去の形式美と現代的な感性を融合させた記念碑的作品となっている。

民俗的起源と普遍性

ラメントの起源を辿れば、それは西洋芸術音楽の枠組みを超え、世界各地の民俗音楽(フォークロア)に深く根ざしていることがわかる。スコットランドのバグパイプ音楽「ピオバロッホ(Piobaireachd)」におけるラメントや、アイルランドの伝統的な葬送歌「キーニング(Keening)」、あるいは東欧の泣き歌など、愛する者の死に際して声を上げて泣く行為を様式化した音楽は、人類共通の文化遺産である。

これらの民俗的なラメントにおいては、洗練された和声進行よりも、装飾音を伴った旋律の揺らぎや、微分音的なピッチのズレが重視されることが多い。これは、制御不能な感情の振幅をそのまま音響化したものであり、クラシック音楽のラメントが構築的な美を追求する一方で、民俗的なラメントはより原初的な癒やし(ヒーリング)の機能を果たしていると言える。

現代における演奏解釈

現代の演奏家がラメント、あるいはラメント的な性格を持つ楽曲に取り組む際、重要となるのは「形式の中にある情熱」を見出すことだ。バロック時代のラメント・バスなどは、一見すると数理的で冷徹なパターンの繰り返しに見えるかもしれない。しかし、その厳格な枠組みがあるからこそ、その上で展開される旋律の自由な感情表現が際立つ仕組みになっている。

規則正しく刻まれるバスは「死」や「時間」といった不可避な現実を象徴し、その上で歌われる旋律は「生」や「感情」を象徴する。演奏者はこの二つの層を明確に描き分ける必要がある。過度に感傷的なルバートでリズムを崩すのではなく、運命の歯車のようなバスの進行を冷厳に保ちつつ、旋律に人間の体温を宿らせること。その緊張関係の中にこそ、ラメントの真の美しさと、時代を超えて人々の心を揺さぶるカタルシスが存在する。悲しみを単に消費するのではなく、美的な体験として昇華させる装置、それがラメントという音楽形式の正体だと言えるだろう。

「ラメントとは」音楽用語としての「ラメント」の意味などを解説

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