リフ
「リフ」について、用語の意味などを解説

riff(英)
リフとは、音楽用語としては、次のような意味を持つ。
(1)(昔の)ジャズ演奏においてバックグラウンドとして繰り返される短いフレーズ(バック・リフ)。
(2)(後の)ジャズの世界では簡潔なフレーズを主題とする曲が演奏され、器楽曲としてのブルースなどのテーマ(リフ)。
(3)テーマの変奏部分(セカンド・リフ)。
(4)ブルース、ロック系のギター奏法において歪んだ単音(または2音)フレーズの繰り返し、などが挙げられる。
定義と語源:反復の中に見出される快楽の構造
リフ(Riff)とは、楽曲の中で執拗に繰り返される短いフレーズ、あるいはコード進行のパターンを指す。一般的に、楽曲の主題(フック)として機能し、聴衆の記憶に強烈な刻印を残す役割を担う。「リフレイン(Refrain)」の短縮形であるという説や、擬音語に由来するという説など諸説あるが、その本質は「反復(Repetition)」と「簡潔さ(Simplicity)」にある。
クラシック音楽における「オスティナート(Ostinato)」と同義に扱われることもあるが、オスティナートがバッソ・コンティヌオ(通奏低音)として楽曲の土台を支える構築的な要素であるのに対し、ポピュラー音楽におけるリフは、それ自体が楽曲の「顔(アイデンティティ)」となり、時にはメロディ以上の求心力を持つ点で区別される。わずか数小節、数個の音の連なりが、聴く者の脳内で無限にループし、身体を揺さぶるグルーヴを生み出す。この魔法のような現象こそが、リフという音楽構造の核心である。
ジャズ・エイジの機能美:即興のためのプラットフォーム
リフの概念が明確に確立されたのは、1930年代のカンザスシティ・ジャズにおけるビッグバンドのスタイルにおいてである。カウント・ベイシー楽団に代表される当時のバンドでは、譜面よりも口頭伝承(ヘッド・アレンジ)が重視された。ソリストが即興演奏を展開する背後で、ブラスセクションやサックスセクションが、「パッ、パッ、パヤッ」といった単純なリズムフレーズを繰り返す。これを「バック・リフ(Background Riff)」と呼ぶ。
このバック・リフは、ソリストを鼓舞し、演奏の熱量を高めるための燃料として機能した。また、時にはこのリフ自体が主役に躍り出て、コール・アンド・レスポンスの形式でセクション同士が掛け合いを行う。デューク・エリントンの『C-Jam Blues』などは、極限までシンプルな2音のリフだけで構成された名曲であり、リフがいかにして楽曲の骨格となり得るかを証明した歴史的な例である。ここでは、リフは単なる伴奏ではなく、即興演奏という不安定な営みを支える堅牢なプラットフォームとしての役割を果たしていた。
ロックにおける革命:リフ・ドリブンという作曲法
1960年代後半から70年代にかけて、エレクトリック・ギターの歪み(ディストーション)サウンドの定着とともに、リフはロック・ミュージックの絶対的な王者となった。ディープ・パープルの『Smoke on the Water』や、ローリング・ストーンズの『(I Can’t Get No) Satisfaction』、レッド・ツェッペリンの『Whole Lotta Love』といった楽曲は、メロディや歌詞よりも先に、まずギターリフが存在し、そのリフによって楽曲全体が支配されている。これを「リフ・ドリブン(Riff Driven)」な作曲法と呼ぶ。
ロックのリフにおいて重要なのは、音色の歪みによる倍音成分の増幅と、リズムの「エッジ」である。パワーコード(ルートと5度のみの和音)や、ブリッジミュートを駆使したパーカッシブな演奏は、リフに打楽器的なアタック感を与える。これにより、ギターリフはメロディ楽器としての旋律美と、リズム楽器としての推進力を同時に獲得した。聴衆はリフを聴くだけで、その曲が持つ世界観やエネルギーを瞬時に理解する。イントロの数秒で勝負が決まるロックにおいて、優れたリフの発明は、ヒット曲を生むための必要条件となったのである。
構造的解析とフックの正体
なぜ特定のリフは耳から離れないのか。その構造を分析すると、いくつかの共通項が見えてくる。 第一に、「リズムの空白」である。優れたリフは、音を詰め込むのではなく、適切な休符(スペース)を含んでいる。マイケル・ジャクソンの『Beat It』のリフのように、音が鳴っていない瞬間に聴き手の意識が吸い込まれ、次の音への渇望感が生まれる。 第二に、「解決の遅延」である。トニック(主音)に安易に戻らず、不安定な音程(例えばブルーノートやトライトーン)を行き来することで、緊張感を持続させる。クリームの『Sunshine of Your Love』のリフは、半音階下降を用いることで、ブルージーな粘りと解決への期待感を巧みに操っている。
また、音域の制限も重要である。多くの名リフは、1オクターブ以内、あるいはペンタトニック・スケールの5音以内で構成されている。この制約が、逆にフレーズの強度を高め、誰でも口ずさめる(シンガブルな)普遍性を与えているのである。
現代音楽における変容:ループとサンプリングの時代
ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックの台頭以降、リフの概念は「ループ素材」として再定義された。サンプラーを用いて過去のレコードから数小節のリフを切り出し(サンプリング)、それを反復させることで新たな楽曲の基礎とする手法である。ここでは、かつてのリフが持っていた「演奏者の身体性」は後退し、音響的な「質感(テクスチャ)」としての側面が強調される。
しかし、シックの『Good Times』のベースラインがシュガーヒル・ギャングの『Rapper’s Delight』に引用され、さらにクイーンの『Another One Bites the Dust』に影響を与えたように、リフは時代やジャンルを超えて伝播し、変異し続けるミーム(文化的遺伝子)のような性質を持っている。現代のDAW(作曲ソフト)においても、ループライブラリからリフを選んで並べる作業は作曲の常套手段となっている。形は変われど、人間が「繰り返される音の快楽」から逃れられない限り、リフは音楽の最も根源的な構成要素として生き続けるだろう。
「リフとは」音楽用語としての「リフ」の意味などを解説
Published:2025/12/27 updated:
