リミッター
「リミッター」について、用語の意味などを解説

limiter(英)
リミッターとは、信号の最大レベルを設定したレベルに抑える装置、または回路。
これによりレコーディングでの規定以上の信号がレコーダーに加わるのを防いだり、PAで大信号によるスピーカーの破壊を防ぐ事ができる。
リミッターの働き
リミッターは、設定した最大レベル以下の信号に対しては何の効果も持たないが、それを越えると増幅率を減少させ出力が大きくなるのを防ぐという働きをする。
またこのリミッター機能によく似たコンプレッサーという装置があるが、現在の多くの機械ではコンプレッサーとリミッターの動作は同一の機械で実現できる。
「絶対境界線」としての定義と役割
リミッター(Limiter)とは、音響信号処理において、信号レベルがあらかじめ設定された上限値(スレッショルド/シーリング)を超えないように「制限(Limit)」する装置、あるいはその機能を持つエフェクト回路のことである。その本質は「鉄壁の防御」にある。入力信号がどれほど過大であっても、出力信号を指定されたレベル以下に強制的に封じ込めることで、後段に接続された機器の安全を担保し、音質の致命的な破綻を防ぐことがその主たる目的となる。
この機能は、レコーディングにおいては予期せぬ突発的な大音量(ピーク)によるデジタルクリッピング(歪み)を回避するために、PA(音響拡声)の現場においてはスピーカーユニットの物理的な破壊やパワーアンプの過負荷を防ぐために、そして放送業界においては電波の過変調による法的規制違反を防ぐために不可欠な「最後の砦」として機能している。
コンプレッサーとの連続性と境界線
技術的な観点から言えば、リミッターは「コンプレッサーの一種」に分類される。両者の基本的な動作原理は同一であり、入力信号が閾値(スレッショルド)を超えた際に、その増幅率(ゲイン)を減衰させるという点で共通している。その決定的な違いは、圧縮比率(レシオ)の設定にある。
一般的なコンプレッサーが、レシオを2:1から10:1程度の緩やかな比率に設定し、音のダイナミクスを整えたり、密度を高めたりする「音作り」を目的とするのに対し、リミッターはレシオを10:1以上、極端な場合は∞:1(無限大対1)に設定する。これは、閾値を超えた分の信号を一切通さない、すなわち「壁」として振る舞うことを意味する。現代のデジタルプラグインや高機能なハードウェアでは、同じ機材でレシオを可変させることで、コンプレッサーとしてもリミッターとしても使用できるものが一般的であるため、その境界線は使用者の設定と意図に委ねられていると言える。
ブリックウォール・リミッターとデジタルオーディオの宿命
アナログオーディオの時代、テープ飽和(サチュレーション)などの現象により、過大入力に対する許容範囲(ヘッドルーム)にはある程度の柔軟性があった。しかし、デジタルオーディオの登場により、リミッターの重要性は劇的に高まった。デジタル録音において、フルスケール(0dBFS)を超えた信号は、波形の上端が平らに切り取られ、「バリバリ」という不快なデジタルクリッピングノイズとなり、データの修復は不可能となるからである。
このデジタル特有の厳格な上限を守るために開発されたのが、「ブリックウォール・リミッター(Brickwall Limiter)」である。「煉瓦の壁」という名の通り、信号を絶対に0dBFS(あるいは設定値)以下に抑え込む。これを実現するために、多くのデジタルリミッターは「ルックアヘッド(Look-ahead:先読み)」機能を搭載している。これは入力信号を数ミリ秒遅らせてバッファに蓄え、ピークが来ることを事前に検知してからゲインリダクションを開始する技術である。これにより、アナログ回路では避けられなかった反応の遅れによるピークの漏れ(オーバーシュート)を完全に防ぐことが可能となった。
マキシマイザーへの進化とラウドネス戦争
2000年代以降、CDやストリーミングサービスにおける「音圧競争(ラウドネス・ウォー)」が激化すると、リミッターは単なる保護装置から、音圧を稼ぐための攻撃的なツールへと進化した。これが「マキシマイザー(Maximizer)」と呼ばれるリミッターの一形態である。
マキシマイザーは、スレッショルドを下げることで全体の音量を持ち上げつつ、ピーク部分は強力なブリックウォールで抑え込む。この時、過剰なリミッティングによる「音の潰れ」や「ポンピング(音量の不自然な揺れ)」といった副作用を、聴覚心理モデルを利用したアルゴリズムで最小限に抑えるよう設計されている。最新のマキシマイザーは、トゥルーピーク(True Peak:D/A変換時にサンプル間で発生するクリッピング)を検出し制御する機能や、ストリーミングサービスのラウドネス基準(LUFS)に最適化する機能を備え、マスタリング工程における最終的な音質決定権を握る最重要プロセッサーとなっている。
ライブサウンドにおけるシステム保護の要
レコーディングだけでなく、PAシステムにおいてもリミッターは生命線である。スピーカーマネジメントシステム(DSP)には、各周波数帯域(低域、中域、高域)ごとに独立したリミッターが設定されていることが多い。これは、例えばマイクを落とした時の衝撃音や、ハウリングといった突発的な過大入力から、高価なスピーカーユニット(特に繊細なツイーター)のボイスコイルが焼き切れるのを防ぐためである。
ここでは「ピークリミッター」だけでなく、「RMSリミッター」も併用されることがある。ピークリミッターが瞬間的な過大入力を抑えるのに対し、RMSリミッターは長時間続く平均的な過入力を監視し、スピーカーの熱損傷を防ぐ役割を果たす。優秀なシステムエンジニアは、リミッターが作動しても聴感上の音量低下や音質劣化が観客に悟られないよう、アタックタイムやリリースタイムを緻密に調整し、機材の保護と音楽体験の質を両立させているのである。
リミッターとは、音楽のダイナミクスを物理的な限界値の中に収めるための冷徹な番人であるが、その制御の巧拙は、最終的なサウンドの迫力と明瞭度を決定づける芸術的な要素をも孕んでいる。
「リミッターとは」音楽用語としての「リミッター」の意味などを解説
Published:2025/12/27 updated:
