ワルツ
「ワルツ」について、用語の意味などを解説

waltz(英)
ワルツとは、19世紀にウィーンを中心に流行した3拍子の舞曲。男女が抱き合い旋回しながら踊る。舞踏を伴わない演奏会用楽曲としても定着。円舞曲。ショパン、ヨハン・シュトラウスの曲が有名。円舞曲。仏語ではvalse、独語では、Walzer。
ワルツがもたらした身体的革命と社会規範の転覆
「男女が抱き合い旋回しながら踊る」と簡潔に記述しているが、この舞踊形式が18世紀末から19世紀初頭にかけてのヨーロッパ社会に与えた衝撃は、現代の我々が想像する以上のものであった。それまでの貴族社会で主流であったメヌエットなどの宮廷舞踊は、パートナー同士が指先で触れる程度の距離感を保ち、優雅さと儀礼的な所作を重んじるものであった。
これに対し、ワルツは「クローズド・ホールド(Closed Hold)」と呼ばれる、男性が女性の腰に手を回し、女性が男性の肩に手を置くという、当時としては極めて密接な身体的接触を伴うものであった。互いの呼吸を感じるほどの至近距離で急速に回転し続けるこの踊りは、当初は「不道徳」「卑猥」として教会や保守的な批評家から激しい非難を浴びたのである。
しかし、フランス革命後の自由主義的な空気感と、新興市民階級の台頭と相まって、この「陶酔的な回転」は瞬く間に大衆を魅了した。ウィーン会議(1814-1815)での「会議は踊る、されど進まず」という言葉に象徴されるように、政治外交の場においてさえ中心的な役割を果たす社会現象となり、それはまさに身体を通じた社会規範への革命であったと言えよう。
「ウィーンなまり」の正体:記譜できないリズムの揺らぎ
音楽的な側面において、特に「ウィンナ・ワルツ(Viennese Waltz)」を語る上で欠かせないのが、その独特なリズムの揺らぎである。楽譜上は均等な3拍子(ズン・チャ・チャ)として記譜されるが、実際のウィーンの演奏習慣において、この3拍は数学的・時間的に等間隔ではない。
具体的には、1拍目のバス(低音)の後に続く2拍目の和音が、わずかに早く打たれる(あるいは1拍目が重く長めに取られることで相対的に2拍目が早く感じられる)という特徴がある。この「ズン・(タ)ッチャ」とも表現できる独特の「食い気味」の2拍目と、それに続く少し遅れた3拍目が、ワルツ特有の浮遊感と推進力を生み出すのである。これは「ウィーンなまり(Wiener Note)」とも呼ばれ、指揮者のカルロス・クライバーやウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏に顕著に見られるように、単なるメトロノーム的な正確さを超えた、呼吸のような有機的なアゴーギク(速度変化)こそがワルツの生命線なのである。
舞踏室からコンサートホールへ:芸術作品としての昇華
ワルツは当初、実用的なダンス音楽として発展したが、次第に「踊るため」ではなく「聴くため」の芸術作品へと進化を遂げた。その先駆けとなったのが、ウェーバーの『舞踏への勧誘』(1819年)である。この作品は、単なる舞曲の羅列ではなく、舞踏会への招待、会話、ダンス、そして終結というドラマティックな構成を持ち、ワルツを器楽芸術の域へと高めた画期的な作品であった。
その後、フレデリック・ショパンは、実際に踊ることを想定しない「ピアノのための詩」としてのワルツを確立した。彼自身が「肉体のためではなく、魂のために踊る」と評されるような作品群を残し、これらは「ヴァルス・ブリランテ(華麗なる円舞曲)」や「メランコリックな小品」として、サロン音楽の至宝となったのである。一方で、ブラームスの『愛の歌』のように、レントラー(ワルツの前身とされる南ドイツ・オーストリアの民族舞踊)の素朴な味わいに回帰する動きもあり、ワルツという形式は作曲家たちの個性を映し出す鏡のような存在となっていった。
交響的ワルツと「時代の黄昏」の象徴
オーケストラ音楽の分野でも、ワルツは重要な位置を占めた。ベルリオーズの『幻想交響曲』第2楽章では、交響曲の歴史の中で初めてメヌエットやスケルツォの代わりにワルツが導入され、固定観念を打破した。また、チャイコフスキーは交響曲第5番やバレエ音楽『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』において、ロシア的な憂愁と優美さを融合させた壮大なワルツを展開し、このジャンルの表現力を極限まで拡大した。
しかし、19世紀末から20世紀初頭にかけて、第一次世界大戦の影が忍び寄ると共に、ワルツの描く世界も変容を余儀なくされる。モーリス・ラヴェルの管弦楽曲『ラ・ヴァルス』(1920年)は、かつてのウィーン宮廷の栄華とその崩壊を描いた作品と言われている。ここでは、優雅なワルツの旋律が次第に不協和音に侵食され、最後には暴力的なまでのカオスの中で断ち切られる。これは、ワルツという形式が象徴していた「古き良きヨーロッパ」の終焉を音楽的に表現した記念碑的な作品であり、ワルツはここで一つの歴史的な役割を終えたとも解釈できるだろう。
現代におけるワルツの系譜と普遍性
現代においてワルツは、クラシック音楽の枠を超えて映画音楽やポピュラー音楽の中にも脈々と息づいている。スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』で使用されたJ.シュトラウス2世の『美しく青きドナウ』は、無重力の宇宙空間と優雅なワルツの回転を見事にリンクさせ、この楽曲にテクノロジーと宇宙という新たなイメージを付与した。また、ショスタコーヴィチの『ジャズ組曲』に見られるような、どこかアイロニカルで哀愁を帯びたワルツも、現代人の複雑な感性に強く訴えかけるものがある。
このようにワルツは、単なる「3拍子の舞曲」という定義を超え、時代の精神、社会の変容、そして人間の根源的な「回転への欲求」を内包しながら、音楽史の中で常に形を変えて生き続けているのである。それは過去の遺物ではなく、現在進行形の芸術形式として我々の前に存在している。
「ワルツとは」音楽用語としての「ワルツ」の意味などを解説
Published:2026/01/29 updated:
