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黒人霊歌

Posted by Arsène

「黒人霊歌」について、用語の意味などを解説

黒人霊歌

negro spirituals(英)

黒人霊歌とは、アメリカ黒人が奴隷時代に作った宗教歌。歌詞は主として旧約聖書に基づき、音楽は五音音階やシンコペーション・リズムなどの黒人的特質に西洋音楽が組み合わされている。

黒人霊歌の音響的出自と非ヨーロッパ的旋律構造

黒人霊歌(スピリチュアル)は、アメリカの奴隷制下にあったアフリカ系の人々の民族的感性と、ヨーロッパのプロテスタント賛美歌が融合して生まれた宗教歌曲である。
音楽的な最大の特徴は、ヨーロッパ伝統の機能和声から一線を画す独自の旋律語法にある。
主に五音音階(ペンタトニックスケール)を基盤とし、のちにジャズやブルースの決定的な構成要素となるブルーノート(微細に引き下げられた第3音や第7音)の萌芽を含んでいる。
さらに、拍頭を意図的にずらすシンコペーションや、即興的な変奏を可能にする口承性が、楽譜のグリッドに縛られない動的な推進力を生み出す。

クラシック音楽への受容と芸術歌曲としての結晶化

19世紀末、アントニン・ドヴォルザークがアメリカ滞在中に黒人霊歌に深く傾倒し、交響曲第9番「新世界より」や弦楽四重奏曲「アメリカ」にその旋律的特徴を投影したことは、西洋音楽史において極めて大きな意味を持つ。
ドヴォルザークの精神を継いだハリー・バーレイらの作曲家は、口承の旋律を西洋の伝統的な歌曲(リート)の手法を用いて精密に編曲し、独唱とピアノのための芸術歌曲へと昇華させた。
これにより、黒人霊歌はクラシックのリサイタルにおける主要なレパートリーとして定着した。
クラシックの精緻な和声空間と、霊歌の持つ劇的で素朴な語り口が高度に融合したこの形態は、演奏実践に新しい表現の次元をもたらした。

無伴奏合唱におけるコール・アンド・レスポンスと音響共鳴

黒人霊歌の合唱、特にフィスク・ジュビリー・シンガーズの系譜に代表される伝統的な無伴奏(ア・カペラ)形態は、極めて独特な音響空間を合成する。
独唱者が提示したフレーズに合唱全体が応える「コール・アンド・レスポンス」構造は、バロック音楽における協奏曲風の対比にも通じる。
合唱において重要となるのは、胸声を主体とした豊かな中低域の倍音成分と、アコースティック空間における和声の純度である。
十二平均律の枠にとどまらず、協和度の高い純正な音程で各声部をブレンドすることにより、ホール内には唸りのない豊かな共鳴と立体的な残響が創出される。
このア・カペラによるポリフォニーとホモフォニーの絶妙な往還は、声楽アンサンブルにおける音響設計の優れた模範を示している。

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