リピート
「リピート」について、用語の意味などを解説

repeat(英)
リピート(repeat)とは、楽曲のある部分を繰り返す事。
定義と記譜法:時間を折り畳むためのシステム
音楽用語における「リピート(Repeat)」は、楽曲の特定の区間を反復演奏することを指示する概念であり、その最も基本的な機能は「時間の拡張」と「形式の構築」にある。楽譜上では、太い縦線と細い縦線にコロン(2つの点)を付した「反復記号(Repeat Signs)」によって表現される。開始を示す「||:」と、終了を示す「:||」で囲まれた区間は、原則として2回演奏される。
この記号システムは、物理的な紙幅を節約するという実利的な目的もさることながら、楽曲の構造(アーキテクチャ)を視覚的に明示する役割を果たしている。例えば、古典派のソナタ形式において、提示部(Exposition)の末尾に置かれるリピート記号は、単なる繰り返しではなく、「ここまでが提示部であり、次から展開部が始まる」という形式的な境界線を宣言するメルクマールである。また、1番カッコ(First Ending)、2番カッコ(Second Ending)を用いることで、繰り返しのたびに結尾を変化させ、物語をスムーズに次章へと接続する機能も持っている。
反復の美学:なぜ音楽は繰り返すのか
音楽の本質的な問いとして、「なぜ同じフレーズを繰り返す必要があるのか」という命題がある。心理学的な側面から見れば、反復は聴衆の記憶に旋律を定着させるための最も有効な手段である。一度聴いただけでは捉えきれない複雑な和声やメロディラインも、リピートによって再提示されることで、脳内で整理され、予測可能な快楽へと変換される。
しかし、芸術音楽におけるリピートは、単なるコピー&ペーストではない。演奏家にとっての反復とは、二度目の演奏において、一度目とは異なる解釈やニュアンスを付与するための好機(チャンス)である。バロック音楽の時代から、繰り返しの際には装飾音(オーナメント)を加えたり、強弱(ダイナミクス)を変化させたりすることが暗黙の了解とされてきた。一度目を「提示」とするなら、二度目は「確認」あるいは「強調」であり、聴き手の意識レベルでの受容のされ方は一回目と二回目で決定的に異なっているのである。つまり、物理的には同じ音が鳴っていても、心理的時間の中では決して同じ体験ではないというパラドックスが、音楽的リピートの深淵さである。
エフェクトとしてのリピート:空間の生成
電気音響的な文脈において、「リピート」という言葉は、ディレイ(Delay)やエコーといった空間系エフェクターのパラメータとして全く別の意味を持つ。ここでは、リピート(またはフィードバック)とは、入力された信号が遅延回路を通り、再び入力に戻される回数や量を指す。
リピートの設定値を上げれば、「ヤッホー」という声が「ヤッホー、ヤッホー、ヤッホー…」と永遠に繰り返されることになる。この時、繰り返される音は回路を通るたびに高域が削れたり、歪んだりして劣化していく(アナログディレイの場合)。この「音の減衰と変化」こそが、人工的な空間の奥行きや、過去の記憶が遠ざかっていくようなノスタルジアを演出する。ダブ(Dub)などのジャンルでは、このリピートノブをリアルタイムで操作し、発振(オシレーション)寸前のカオスな音響を作り出すことが、ひとつの演奏技法として確立されている。
再生メディアにおけるリピート:所有から循環へ
リスナーの視点に立てば、リピートとは再生機器(プレイヤー)の機能としての「リピート再生」を意味する。アルバム全体を繰り返す「オールリピート」や、一曲だけを執拗に繰り返す「シングルリピート(1曲リピート)」は、現代人の音楽聴取スタイルを象徴する機能である。
かつてレコードの時代には、リピートするためには針を物理的に戻す必要があり、そこには能動的な身体動作が伴っていた。しかし、デジタル時代においては、ボタン一つで、あるいはプレイリストの設定一つで、音楽は永遠に循環するBGMとなる。特にストリーミングサービスにおいては、再生回数がアーティストの収益に直結するため、短く中毒性のあるサビを冒頭に配置し、リピート再生を誘発するような楽曲構造(TikTok向けなど)が増加している。これは、テクノロジーの仕様が音楽の形式そのものを変容させている現代的な事例と言えるだろう。
記号を超えた反復:ミニマリズムとトランス
最後に、記号としてのリピートを超えた、より根源的な「反復音楽」について触れる必要がある。スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスに代表されるミニマル・ミュージック、あるいはテクノやハウスといったクラブ・ミュージックは、微細な変化を伴う執拗なリピートそのものを主眼としている。
ここでは、反復は記憶のためでも形式のためでもなく、時間の感覚を麻痺させ、聴き手をトランス状態(変性意識状態)へと導くための儀式的なツールとして機能する。繰り返されるビートに身を委ねることで、自我が融解し、音と一体化する体験。それは、太古の祭祀における太鼓の連打から現代のレイヴまで通底する、人間が音楽に求める原始的な効能の一つである。
「リピート」とは、楽譜上の二つの点に過ぎないが、その背後には、記憶、空間、経済、そして意識の変容に関わる、音楽という芸術形式の極めて本質的なメカニズムが隠されている。
「リピートとは」音楽用語としての「リピート」の意味などを解説
Published:2025/12/27 updated:
