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音楽用語集 音楽用語辞典

ループ

Posted by Arsène

「ループ」について、用語の意味などを解説

ループ

loop(英)

ループ(loop)は、音楽用語としては、次のような意味を持つ。

(1)サンプラーなどで、持続音を得るための機能。

(2)指定された条件が満たされるまで意図的に繰り返し実行される場合以外で、誤った命令によって同じ所から無限に実行される場合。

(3)プログラムの中で、輪の様になっている流れの部分。

ループ(loop)(DTM用語)

概念の拡張:円環する時間の美学

音楽における「ループ(Loop)」とは、単なる「繰り返し」という動作を超え、現代音楽の構造を根本から再定義した概念である。定義上は、特定のフレーズやビートを始点から終点まで再生し、直ちに始点に戻って切れ目なく再生し続ける状態を指す。しかし、その音楽的な意義は、直線的に流れる西洋音楽的な時間軸(始まりがあり、展開し、終わりがあるドラマチックな時間)を、円環的で瞑想的な時間軸へと変容させた点にある。

ループは、聴き手の意識を「次に何が起こるか(未来)」という予測から、「今ここで鳴っている音の微細な変化(現在)」へと繋ぎ止めるアンカー(錨)の役割を果たす。この構造は、ミニマル・ミュージックやアンビエント、そしてテクノやハウスといったクラブ・ミュージックにおいて、聴衆をトランス状態へと誘うための最も強力な装置として機能している。

テープ・ミュージックから始まる物理的ループの歴史

ループの起源は、デジタル技術が生まれる遥か以前、磁気テープを用いた物理的な実験(ミュジック・コンクレート)に遡る。1940年代から50年代にかけて、ピエール・シェフェールらは録音テープの両端を接着剤で繋ぎ合わせ、物理的な輪(ループ)を作成して再生機にかけた。これにより、蒸気機関車の音や人の話し声が永遠に繰り返される音響オブジェが誕生した。

この手法をポピュラー音楽に持ち込んだ象徴的な例が、ビートルズの『Tomorrow Never Knows』(1966年)である。彼らはカモメの鳴き声(実際はテープの早回し音)などを録音した複数のテープループをミキシング卓でフェーダー操作し、偶然性の高いサイケデリックな音響空間を構築した。また、スティーヴ・ライヒは、同じフレーズを録音した2つのテープループを同時に再生し、わずかな速度差によってズレが生じていく「フェイズ・シフティング(位相のズレ)」という手法を発明し、ループが持つリズムの多層的な可能性を提示した。

ヒップホップにおける「ブレイク」の永続化

1970年代のニューヨークで起きたヒップホップの誕生は、ループの概念を「作曲の最小単位」へと昇華させた革命であった。DJクール・ハークらは、ファンクやソウルのレコードにおける、歌がなくドラムだけになる数秒間の演奏箇所(ブレイク)に着目した。彼らは同じレコードを2枚用意し、片方のブレイクが終わる瞬間に、もう片方のブレイクを頭から再生するという人力のループ(ジャグリング)を行うことで、数秒間のブレイクを「永遠に続くビート」へと拡張したのである。

この発見は、後にサンプラー(MPCなど)というデジタル機器によって自動化され、ブレイクビーツという文化を生み出した。ジェームス・ブラウンの『Funky Drummer』やウィンストン・ブラザーズの『Amen Brother』といった楽曲のドラムループは、何千もの楽曲にサンプリングされ、現代音楽のリズムのDNAとして組み込まれている。

テクノロジーの進化とDAWにおけるループの民主化

21世紀において、ループはDAW(Digital Audio Workstation)の中心的な構成要素となった。特にAbleton Liveのようなソフトウェアは、「セッションビュー」というインターフェースを採用し、オーディオやMIDIのクリップをレゴブロックのようにリアルタイムで組み合わせることを可能にした。ここでは、楽曲は「始まりから終わりまで書かれた譜面」ではなく、「交換可能なループの集合体」として扱われる。

Acid Proが導入した「タイムストレッチ」技術により、テンポ(BPM)の異なるループ素材を音程を変えずに同期させることが容易になり、音楽制作の敷居は劇的に下がった。Spliceのようなサンプルパックサービスの台頭により、プロフェッショナルな品質のドラムループやシンセリフを誰もが使用できるようになった現在、クリエイターの役割は「音を一から作る」ことから、「既存のループをいかに選び、どう組み合わせるか(キュレーション)」という方向へも拡張している。

ライブ・パフォーマンスにおける「その場限りの構築」

「ルーパー(Loop Station)」と呼ばれるエフェクターの普及により、ループはステージ上でのパフォーマンスツールとしても進化を遂げている。エド・シーランに代表される現代のシンガーソングライターたちは、足元のペダルを操作してギターの打撃音でリズムを作り、その上にコードストローク、ベースライン、コーラスを次々と重ねていく(オーバーダビング)ことで、たった一人でフルバンドのような厚みのあるサウンドをリアルタイムで構築する。

このパフォーマンスの魅力は、観客が「音楽が組み立てられていくプロセスそのもの」を目撃できる点にある。失敗が許されない緊張感と、音が層のように積み重なっていく高揚感は、完成された音源(同期演奏)を流すだけのライブとは一線を画す、演劇的なエンターテインメント性を持っている。

心理学的効果:反復がもたらすトランスと快楽

なぜ人間は、執拗に繰り返されるループに快楽を感じるのか。心理学的な観点からは、「予測可能性(Predictability)」と「認知負荷の軽減」が鍵となる。音楽を聴く際、脳は常に次の展開を予測しようとするが、複雑な楽曲ではその処理にエネルギーを要する。対してループミュージックでは、脳は「次も同じフレーズが来る」と確信できるため、リラックスした状態で音の細部(テクスチャ)に没入することができる。

この状態が続くと、脳波はアルファ波やシータ波が優位な瞑想状態(トランス)に近づくとされる。クラブのダンスフロアで長時間同じキックドラム(4つ打ち)を聴き続けることで得られる一体感や高揚感は、古代の儀式における太鼓の反復と同様の、原初的な脳の反応を利用しているのである。ループとは、現代人がテクノロジーを使って手に入れた、時間を停止させ、永遠の「今」に没入するための魔法の円環である。

「ループとは」音楽用語としての「ループ」の意味などを解説

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