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レチタティーヴォ

Posted by Arsène

「レチタティーヴォ」について、用語の意味などを解説

レチタティーヴォ

recitativo(伊)

レチタティーヴォ(recitativo)とは、オペラ、オラトリオ、カンタータなどで歌われれる叙述的な独唱曲。

アリアが旋律の美しさを重視した叙情的なものであるのに対し、レチタティーヴォは言葉の抑揚に忠実で叙述的。叙唱ともいう。

「語る」ための音楽:モノディ様式の誕生と革命

レチタティーヴォ(Recitativo)の起源は、1600年前後のフィレンツェで活動したカメラータ(Camerata)と呼ばれる知識人グループの運動に遡る。彼らは古代ギリシャ劇の復興を目指し、当時の複雑なポリフォニー音楽(多声音楽)が歌詞の意味を不明瞭にしていると批判した。そこで提唱されたのが、単一の旋律線が和音伴奏の上で自由に言葉を語る「モノディ様式(Monody)」である。

この様式こそがレチタティーヴォの原型であり、オペラというジャンルそのものの母体となった。レチタティーヴォにおいては、拍子や旋律の美しさよりも、歌詞の抑揚、アクセント、そして文法的なリズムが最優先される。つまり、音楽がテキストの僕(しもべ)となることで、登場人物の感情や物語の進行をリアルタイムで観客に伝達することを可能にした、演劇的リアリズムの最初の勝利であったと言える。

「セッコ」と「アッコンパニャート」:経済と感情の分離

18世紀のオペラ、特にオペラ・セリア(正歌劇)において、レチタティーヴォは明確に二つのタイプに分化し、それぞれの役割を担うようになった。

一つは「レチタティーヴォ・セッコ(Recitativo secco=乾いたレチタティーヴォ)」である。これはチェンバロやチェロなどの通奏低音のみが伴奏し、和音を「ジャーン」と鳴らす簡素なスタイルである。音楽的な拘束が少ないため、歌手は早口で会話を進めることができ、ストーリー展開(プロット)を迅速に処理するのに適していた。当時の観客にとって、ここは物語の筋を追うための「情報処理の時間」であった。

もう一つは「レチタティーヴォ・アッコンパニャート(Recitativo accompagnato=伴奏付きレチタティーヴォ)」、あるいはストロメンタート(Instrumentato)である。これはオーケストラ全体が伴奏に加わり、ドラマティックな転調や色彩豊かな響きで歌手を包み込む。この形式は、主人公が重大な決断を迫られる場面や、精神的な錯乱、神の啓示といった「感情のクライマックス」直前で使用された。セッコが「日常会話」だとすれば、アッコンパニャートは「魂の独白」であり、ここから続くアリアへの助走として、観客の感情を最高潮に高める装置として機能した。

アリアへの架け橋と音楽的連続性

伝統的なナンバー・オペラ(番号付きオペラ)において、レチタティーヴォとアリアは明確に分離されていた。レチタティーヴォで状況が動き(Action)、アリアで時間が止まって感情が吐露される(Reflection)。この「動」と「静」の交代がオペラの基本構造であった。

しかし、モーツァルトの後期作品や、後のワーグナーの楽劇においては、この境界線が意図的に曖昧にされていく。モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』や『フィガロの結婚』では、レチタティーヴォの中にアリアのような旋律美が入り込み、逆にアリアの中に会話的な要素が侵入することで、途切れることのない音楽的ドラマが構築されている。ワーグナーに至っては、全編を「無限旋律」という名の巨大なレチタティーヴォ(あるいはアリアとの融合体)とすることで、劇的真実性を極限まで追求した。

宗教音楽における「福音史家」の役割

レチタティーヴォはオペラだけでなく、オラトリオや受難曲といった宗教音楽においても不可欠な要素である。特にバッハの『マタイ受難曲』や『ヨハネ受難曲』における「エヴァンゲリスト(福音史家)」のレチタティーヴォは、この形式の最高峰と言える。

テノール歌手によって歌われる聖書の記述は、単なる朗読ではない。イエスの受難の場面では不協和音を伴う悲痛な音型が、ペテロが泣く場面では複雑なメリスマ(装飾)が用いられ、言葉の意味を音響的に増幅させる。ここでは、レチタティーヴォは神の言葉を人間に伝えるための神聖なメディアとなり、聴衆を聖書の物語の中へと没入させる説教(sermon)としての機能を果たしている。

シュプレヒゲザングへの進化と現代的意義

20世紀に入ると、シェーンベルクらはレチタティーヴォの概念をさらに推し進め、「シュプレヒゲザング(Sprechgesang=語る歌)」という技法を開発した。『月に憑かれたピエロ』などで用いられたこの手法は、正確な音程を保ちつつも、話し声のような発声を指示するもので、歌と語りの境界を完全に溶解させた。

これは、カメラータが目指した「言葉の力」の復権であると同時に、人間の心理の深層や狂気を描くための、現代的なレチタティーヴォの変種と言える。ミュージカルにおける「ヴァース(Verse)」や、ヒップホップにおける「ラップ(Rap)」もまた、リズムに乗せて言葉を語るという意味で、広義のレチタティーヴォの系譜に連なるものである。言葉と音楽がいかに関係を結ぶかという問いに対し、レチタティーヴォは400年以上にわたり、最も直接的で雄弁な回答であり続けている。

「レチタティーヴォとは」音楽用語としての「レチタティーヴォ」の意味などを解説

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