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ワールドミュージック

Posted by Arsène

「ワールドミュージック」について、用語の意味などを解説

ワールドミュージック

world music(英)

ワールドミュージックとは、伝統、地域、時代、民族のかきねを取り払った世界中の音楽の事。世界の諸民族の音楽の要素を取り入れたハイブリッド的なポピュラー音楽、またはフュージョン系の音楽を指す。

ワールドミュージックは音楽のひとつのジャンルとして、世界中の様々な音楽を包括した意味を持つほか、複数の音楽が複合的になっているさまを表す。元は、1987年にロンドンを中心とした中小レコード会社の会合で発案されたレーベル名であり、商業的な造語である。

その後「ワールドミュージック」という呼称は、アフリカ、アジア、南米など非西洋圏の伝統音楽や民族音楽を紹介するためのカテゴリーとして広く使われるようになった。特定のスタイルを指すものではなく、文化的背景の異なる音楽が交流し、新しい表現へと発展していく過程そのものを含む概念でもある。今日では、民族楽器やリズムを取り入れたポップスやエレクトロニカなどもワールドミュージックに含まれ、その多様性と融合性が音楽文化のグローバル化を象徴している。

ワールドミュージックの歴史的背景と商業的戦略

既述の通り、ワールドミュージックという用語は1987年のロンドンにおける会議で誕生した。この会議は、ピーター・ガブリエルやイギリスのインディペンデント・レーベルの主導によって開催されたものであるが、その主たる目的は極めて実利的なものであった。当時、アフリカや南米、アジアのポップスは、イギリスのレコード店において適切な置き場所が存在しなかったのである。「インターナショナル」や「フォーク」、「エスニック」といった分類では、ロックやジャズを好む層の購買意欲を刺激することができず、多くの優れた作品が埋もれていた。

そこで考案されたのが「ワールドミュージック」という統一された棚(カテゴリー)を作るというマーケティング戦略である。この戦略は功を奏し、ブルガリアの女性合唱団やヌスラット・ファテ・アリ・ハーン、ジプシー・キングスといったアーティストが世界的なヒットを記録することとなった。つまり、この用語は音楽学的な分類というよりも、消費者に届けるための「流通のためのタグ」として機能した側面が強いことは、専門的な視点からは無視できない事実である。

「その他」の音楽としての功罪と文化の消費

1990年代に入るとワールドミュージック・ブームが到来するが、そこには批判的な視座も同時に向けられることとなった。最大の問題点は、欧米(英米)のポップスを「中心(メインストリーム)」とし、それ以外の地域の音楽をひとまとめにして「周辺(その他)」として扱う構造である。アフリカの複雑なポリリズムも、インドのラーガも、ブラジルのサウダージも、すべて同じ「ワールド」という箱に入れられることで、個々の文化的背景や歴史的文脈が希薄化される懸念があった。

また、聴衆の側が「異国情緒(エキゾチズム)」や「未開の純粋さ」を過剰に期待することで、現地のミュージシャンがステレオタイプな演奏を強いられるという「真正性(オーセンティシティ)」を巡るジレンマも生じた。現地の若者がシンセサイザーや打ち込みを用いた最新の音楽を作っても、西側の市場が求める「伝統的な土着性」に合致しないとして評価されないといった事象は、このジャンルが抱える構造的な歪みであったと言えるだろう。

デジタルストリーミング時代の「グローバル・ミュージック」への転換

21世紀に入り、インターネットとストリーミングサービスの普及は、音楽の聴取環境を劇的に変化させた。かつてのようにレコード店の棚に物理的に分類される必要性が薄れたため、リスナーは国境を意識することなく、プレイリストを通じてあらゆる地域の音楽にアクセスできるようになった。

この変化に伴い、「ワールドミュージック」という用語自体が持つ、植民地主義的なニュアンスや「西欧対その他」という二項対立的な視点を忌避する動きが加速している。象徴的な出来事として、アメリカのグラミー賞が2020年に「最優秀ワールドミュージック・アルバム賞」の名称を「最優秀グローバル・ミュージック・アルバム賞(Best Global Music Album)」へと変更したことが挙げられる。これは、より現代的で、かつ文化的な敬意を払った名称へのアップデートであり、音楽業界全体の意識の変化を反映している。

現代における再定義と今後の展望

現在では、アフロビーツ(Afrobeats)、レゲトン(Reggaeton)、K-Popなどが、いわゆる「ワールドミュージック」の枠を超え、世界のメインストリーム・ポップスとしてチャートを席巻している。バーナ・ボーイやバッド・バニーといったアーティストの成功は、もはや「非西洋の音楽」というカテゴライズ自体が陳腐化していることを証明している。

現代におけるワールドミュージック(あるいはグローバル・ミュージック)の意義は、単なる異文化の紹介にとどまらない。それは、異なる文化コードを持った音楽家たちが、デジタル技術を介してリアルタイムで相互干渉し、新たなハイブリッドな表現を生み出す実験場としての機能にある。我々は今、「どこの国の音楽か」という出自よりも、「どのような響きか」という純粋な音の快楽において評価される、真の意味での音楽のグローバル化の時代に立ち会っているのである。こうした文脈を理解した上で、各地域の伝統音楽と現代的な解釈の双方に耳を傾けることが、これからのリスナーには求められている。

「ワールドミュージックとは」音楽用語としての「ワールドミュージック」の意味などを解説

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