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リラ属

Posted by Arsène

「リラ属」について、用語の意味などを解説

リラ属

lyra(英)

リラ属とは、弦鳴楽器のうち、胴から二本の長い棒が柱として出ており、先端で横棒の桁と結び付けられ、横桁から胴に向かって垂直に弦が張られた楽器である。主に撥弦楽器である。

構造的定義:ハープとの決定的な境界線

リラ(Lyre)はしばしば「竪琴(たてごと)」と訳されるため、一般的にハープ(Harp)と混同されやすいが、楽器学(Organology)の分類において両者は明確に区別される。その決定的な違いは、「弦が共鳴板に対してどのような角度で張られているか」にある。

ハープ属の楽器は、弦が共鳴板(響板)から直接立ち上がるように、垂直あるいは斜めの角度を持って張られている。これに対し、リラ属の楽器は、共鳴箱から2本の腕(アーム)が伸び、その先端を繋ぐ横木(ヨーク)に対して弦が張られる。最も重要な点は、この弦が共鳴板に対して「平行的」に張られていることだ。この構造的特徴により、リラ属は「ヨーク・リュート(Yoke Lute)」とも呼ばれ、ハープよりもむしろリュートやギターに近い祖先を持つ楽器として分類される。この平行構造は、ハープのような直接的な共鳴よりも、ブリッジ(駒)を介した間接的で繊細な振動伝達を生み出す。

「亀の甲羅」とアポロン的知性の象徴

ギリシャ神話において、リラの起源はヘルメス神の発明にあるとされる。彼は亀の甲羅に牛の皮を張り、羊の腸(ガット)を張って最初の楽器を作った。このエピソードは、リラが自然界の素材を「加工・秩序化」して作られたものであることを示唆している。

後にこの楽器はアポロン神に譲渡され、音楽、詩、そして理性的思考の象徴となった。古代ギリシャの思想において、リラの清澄な音色は、人間の精神を浄化し、秩序(コスモス)をもたらす「アポロン的」な芸術の極致とされた。これは、熱狂や陶酔を誘うアウロス(ダブルリードの管楽器)が象徴する「ディオニュソス的」な混沌と対比されるものであり、リラを弾くことは単なる娯楽ではなく、魂を調律する倫理的な行為(エートス)と見なされたのである。プラトンが理想国家においてアウロスを排除し、リラを推奨したのもこの理由による。

キタラとリラ:プロフェッショナルとアマチュアの分化

古代ギリシャにおいて「リラ属」の楽器は一様ではなく、用途や階級によって厳密に使い分けられていた。一般的に「リラ(Lyra)」と呼ばれるものは、亀の甲羅(あるいはそれを模した木製)の丸い共鳴箱を持つ軽量な楽器で、主に教育用やアマチュアの愛好家、あるいはシンポジオン(響宴)での伴奏に使用された。

対して、「キタラ(Kithara)」と呼ばれる楽器は、底部が平らで大型の木製共鳴箱を持ち、より大きな音量と豊かな響きを持っていた。これは「キタロード」と呼ばれるプロの演奏家が、公的な祭典や競技会(アゴーン)で使用する本格的なコンサート楽器であった。キタラの奏法は高度に体系化されており、現代のギター(Guitar)やツィター(Zither)という言葉の語源となったのも、この楽器である。

失われた奏法:「ブロック・アンド・ストラミング」

現代に残された壺絵や図像学的資料から、古代のリラ属の奏法は、ハープのような「爪弾き(プラッキング)」だけではなかったことが判明している。多くの奏者は、右手にプレクトラム(撥)を持ち、左手の指で弦の裏側に触れていた。

有力な説によれば、これは「ブロック・アンド・ストラミング」と呼ばれる奏法である。右手で全弦をジャカジャカとかき鳴らし(ストラミング)つつ、鳴らしたくない弦を左手の指で触れてミュート(ブロック)することで、特定の旋律や和音を浮き上がらせる技術だ。この奏法は、現代のオートハープや、エチオピアの伝統楽器「ベガナ(Begena)」や「クラル(Krar)」の奏法と驚くほど類似しており、単音の旋律だけでなく、リズミカルな和音伴奏が可能であったことを示唆している。

現代に息づくリラの系譜

西洋音楽史の表舞台からリラ属は姿を消したが、その系譜は完全に絶えたわけではない。北ヨーロッパには、中世初期に伝播した「クラヴィーク(Kravik Lyre)」やアングロサクソンのリラが存在し、吟遊詩人たちによって奏でられた。また、アフリカ大陸、特にエチオピア正教会においては、現在でも大型のリラ「ベガナ」がダビデの竪琴の末裔として神聖視され、典礼の中で演奏されている。

近年では、古楽器復興運動の一環として、古代のリラやキタラを復元し、当時の音楽を再現しようとする試みも盛んに行われている。その素朴で、しかし倍音豊かな響きは、平均律と機能和声に支配された現代人の耳に、音楽の原初的な力が持っていた「癒やし」と「調和」の記憶を呼び覚ますものである。リラ属は、過去の遺物ではなく、人類と音楽の根源的な関係を語る生きた証人である。

「リラ属とは」音楽用語としての「リラ属」の意味などを解説

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