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ライオンズローア

Posted by Arsène

「ライオンズローア」について、用語の意味などを解説

ライオンズローア

lion’s roar(英)

ライオンズローアとは、片面には膜が張られていて、もう一方の面は開いている円筒形の打楽器(摩擦太鼓)である。片面太鼓であるがひもを引っぱるように擦って演奏する。ライオンローア、ストリングドラムとも呼ばれる。ライオンの声に似た唸るような低い音が出る。roar(ローア)とは咆哮、雄叫びを意味する。

ライオンズローアの奏法と音

膜の中心に開けた穴にひも(もしくはガット弦。4~6フィート)を通し、ヘッドに近いところを握る。松ヤニを塗った指か布、目の粗い手袋で、ひもを引っぱるように擦ると膜が共鳴体となり音が鳴る。

咆哮する摩擦 楽器としての原始と前衛

ライオンズローア(Lion’s Roar)は、その名の通り「ライオンの咆哮」を模した唸り声を上げる特殊な打楽器であり、専門的には「摩擦太鼓(Friction Drum)」の一種に分類される。一般的に打楽器といえば「叩く」行為を想起させるが、この楽器の発音原理は「擦る(こする)」ことにあり、その音響学的構造は弦楽器に近い側面も持っている。

日本では「ストリング・ドラム」という名称で呼ばれることもあるが、この二つは同義である。ただし、クラシック音楽や現代音楽のスコアにおいては、作曲家が求める音色のニュアンスによって、動物的な野性を強調したい場合に「Lion’s Roar」、より無機質で機械的な音を求める場合に「String Drum」と書き分けられるケースも見受けられる。いずれにせよ、この楽器が放つ音は、聴衆の深層心理に訴えかけるような、原初的な恐怖と畏敬の念を喚起する力を持っている。

構造的メカニズムと発音の秘密

ライオンズローアの構造は極めてシンプルである。片面のみに皮(膜)が張られた円筒形の胴体があり、その膜の中心部に小さな穴が開けられている。そこから一本の紐(ひも)、あるいはガット弦や麻紐が通されており、胴体の内側で結び目によって固定されている。

演奏者は、この垂れ下がった紐を、松脂(ロジン)を塗った指、あるいは革製の手袋や布で挟み込み、強く擦りながら滑らせる。この時、指と紐との間に生じる強力な摩擦振動が膜に伝わり、胴体(共鳴器)によって増幅されることで、あの独特な「ウゥゥゥゥ……」という低音の唸りが生成される。 紐を滑らせる速度や圧力、あるいは指を止めるタイミングを微調整することで、ライオンが喉を鳴らすような持続音から、獲物に襲いかかる瞬間の鋭い叫び声まで、多彩な表情を作り出すことが可能である。また、紐の長さを変えることでピッチ(音程)をある程度コントロールすることもでき、グリッサンドのような効果も得られる。

ヴァレーズ『イオニザシオン』における革命的用法

クラシック音楽の歴史において、ライオンズローアを一躍有名にしたのは、エドガー・ヴァレーズによる1931年の作品『イオニザシオン(Ionisation)』である。13人の打楽器奏者のために書かれたこの記念碑的な作品において、ヴァレーズはライオンズローアを単なる擬音効果(サウンド・エフェクト)としてではなく、サイレンやアンビル(金床)と並ぶ、都市文明のノイズや原子のエネルギーを象徴する重要な「楽器」として扱った。

『イオニザシオン』の終盤、カデンツァのように静まり返った空間で、ライオンズローアの不気味なクレッシェンドが響き渡る瞬間は、音楽史におけるハイライトの一つと言える。ここでは、動物的な咆哮というよりも、地殻変動や未知のエネルギー体が呻くような、超自然的な響きとして機能している。ヴァレーズ以降、多くの現代作曲家がこの楽器の持つ音響的なポテンシャルに注目し、ジョン・ケージやミルトン・バビットなどの作品でも、異化効果を生むための重要なツールとして採用されるようになった。

民俗楽器としてのルーツと祝祭性

芸術音楽に取り入れられる以前、ライオンズローアの原型となる摩擦太鼓は、世界各地の民俗音楽において長い歴史を持っていた。例えば、ブラジルのサンバで使用される「クイーカ(Cuíca)」もまた、同じ原理(棒を擦るタイプ)を持つ摩擦太鼓の親戚である。ヨーロッパにおいても、「ルンメルポット(Rommelpot)」と呼ばれる摩擦太鼓が、クリスマスやカーニバルといった祝祭の場子供たちによって演奏されてきた。

これらの民俗的な文脈において、ライオンズローア(あるいはその同類)の音は、しばしば悪霊払いや、冬の寒さを追い払うための象徴的な「声」として機能した。死者の魂の叫びや、獣の霊力を借りるためのシャーマニズム的な儀式と結びついていた地域もあり、現代のオーケストラ作品においても、その土着的で呪術的な響きの記憶は、音色の底流に脈々と受け継がれている。

演奏技法:アコースティックな触感の制御

ライオンズローアの演奏は、見た目以上に繊細な技術を要する。初心者が演奏すると、単に「ググッ」という短い音が鳴るだけで、持続的な響きを得ることは難しい。豊かな倍音を含んだ唸り声を持続させるためには、紐のテンション(張り具合)と摩擦のスピードを絶妙なバランスで維持する必要がある。

特に重要なのが「松脂」の量と質である。ヴァイオリンやチェロと同様に、適切な摩擦係数を得るためには松脂が不可欠だが、塗りすぎると音が詰まり、少なすぎると音がスカスカになる。また、紐を引く際の手の形や、皮の張り具合によっても音色が劇的に変化するため、奏者は楽器と対話しながら、その個体に最適な「鳴らし方(ツボ)」を探らなければならない。デジタルサンプリングが全盛の現代においても、このアナログ極まりない「擦る」という行為が生み出す不確定で有機的なサウンドは、決して電子音では代替できない唯一無二の存在感を放っている。

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「ライオンズローアとは」音楽用語としての「ライオンズローア」の意味などを解説

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