ロート・タム
「ロート・タム」について、用語の意味などを解説

rout tom(英)
ロート・タムとは、ドラムセットの中のタムタムの一種。胴を持たないドラムの事。
回転させる事により音の高さ(ピッチ)を変える事ができる。また、ロート・タムは、余韻が少なくアタックの強いサウンドが得られる。
構造的特異性とピッチ可変のメカニズム
ロート・タム(Roto Tom)は、ドラムセットに組み込まれるタムタムの一種であるが、一般的なドラムが持つ「シェル(胴)」を持たないという点において決定的に異なっている。その構造は極めてシンプルかつ合理的であり、金属製のスポークフレームにヘッド(打面)を張っただけの形状をしている。この「胴の欠如」は、音が共鳴して増幅される空間を持たないことを意味し、結果として余韻(サステイン)が極端に短く、アタック成分が強調された鋭利でパーカッシブなサウンドを生み出す要因となっている。
最大の特徴は、その名称の由来ともなっている「回転(Rotate)」機構にある。通常のドラムはチューニングキーを用いて複数のボルトを締め上げることでヘッドの張力を調整するが、ロート・タムはフレーム自体を回転させることで全体のテンションを一括して変更できる仕組みを持っている。時計回りに回転させればピッチが上がり、反時計回りに回せば下がる。この操作は演奏中であっても瞬時に行うことが可能であり、打楽器でありながら旋律的なアプローチや、グリッサンドのような劇的な音程変化(ポルタメント効果)を実現できる稀有な楽器である。
歴史的背景とレモ社の革新
ロート・タムは1960年代後半から70年代にかけて、アメリカのドラムヘッドメーカーであるREMO(レモ)社によって開発・普及された。当初は現代音楽や打楽器アンサンブルにおける、簡易的なティンパニの代用品、あるいは練習用ドラムとしての側面が強かった。ティンパニのようにペダル操作ではないものの、手動回転によって類似のピッチ変化が得られるため、スペースやコストの制約がある現場で重宝されたのである。
しかし、その独特のドライで抜けの良いサウンドは、当時のロックやフュージョンシーンのドラマーたちに「新しい音色」として発見されることとなる。特に70年代後半から80年代にかけてのプログレッシブ・ロックやニュー・ウェイヴの隆盛とともに、その近未来的でメカニカルな外観も相まって、大規模なドラムセットの拡張キットとして爆発的に普及した。6インチから18インチ程度まで多彩なサイズバリエーションがあり、これらを階段状に並べてメロディアスなフィルインを叩くスタイルは、当時のドラムヒーローたちの象徴的なセットアップとなった。
音響的特性とマイキングの難しさ
音響工学的な視点から見ると、ロート・タムは「共鳴胴を持たない」ために、指向性が特殊である。通常のタムが胴内部の空気振動と裏ヘッド(ボトムヘッド)の共鳴によってふくよかな中低音を前方に押し出すのに対し、ロート・タムの音はヘッドの振動そのものが直接周囲に拡散する。そのため、生音(アコースティック)の状態では音量が比較的小さく、低音成分も希薄である。
この特性は、PA(音響拡声)システムを通した際に真価を発揮する。マイクで至近距離から収音(オンマイク)することで、余計な胴鳴りのない、クリアで粒立ちの良いアタック音を抽出できるからだ。これは、リバーブやゲートといった電気的なエフェクト処理との相性が極めて良いことを意味する。80年代のポピュラー音楽で聴かれる、ゲートリバーブを深くかけた「バシュッ」という爆発的なドラムサウンドの一部は、ロート・タムの音響特性を利用して作られたものも多い。
現代における再評価と使用の文脈
90年代以降、音楽シーンがより生々しい(オーガニックな)ドラムサウンドを求めるようになると、人工的で冷ややかな響きを持つロート・タムの使用頻度は一時的に減少した。しかし、近年ではその独自のキャラクターが再評価されつつある。
一つの文脈は、ヒップホップやトラップ(Trap)ミュージックにおけるサンプリングソースとしての利用である。ロート・タム特有のピッチの高い、乾いた「カン」という音色は、電子的なドラムマシンのスネアやパーカッションと混ざりが良く、アクセントとして効果的である。 もう一つの文脈は、プログレッシブ・メタルやテクニカルなフュージョンにおける、超絶技巧プレイの一部としての復権である。テリー・ボジオやダニー・ケアリー(Tool)といった、要塞のようなドラムセットを駆使するドラマーたちは、通常のタムでは出せない高音域や、音程感を伴うオスティナート(執拗反復)フレーズを構築するために、現在でもロート・タムを重要な機材としてセットに組み込んでいる。
単なる「過去の流行楽器」ではなく、他の打楽器では代替不可能な「明確な音程操作機能を持つ膜鳴楽器」として、ロート・タムは打楽器の歴史において独自の地位を確立しているのである。演奏者はこの楽器を単に叩くだけでなく、旋律楽器のように「歌わせる」意識を持つことで、リズムの枠を超えた表現の可能性を切り拓くことができるだろう。
「ロート・タムとは」音楽用語としての「ロート・タム」の意味などを解説
Published:2026/01/12 updated:
