和音
「和音」について、用語の意味などを解説

chord(英)
和音(わおん、コード)とは、2つ以上の高さが異なる音が、同時に響く事により合成されて生み出される音の響き。イタリア語、ドイツ語、フランス語では、アッコルド。
その合成音は、調和の度合いに応じて協和音と不協和音とに分けられる。
調性音楽では、3度間隔で積み重ねられた音の響きを基本に和音を考える。
構成する音の数によって三和音や四和音(七の和音)などと呼ばれる。
自然倍音列と協和音の物理的必然性
和音(コード)の根源は、人間が恣意的に定めたルールではなく、音響物理学的な「自然倍音列(Harmonic Series)」の中に存在する。ある一つの音(基音)が鳴る時、実際にはその周波数の整数倍の周波数を持つ無数の「倍音」が同時に鳴っている。例えば、「ド(C)」の音を鳴らすと、その中には1オクターブ上の「ド」、その上の「ソ(G)」、さらに上の「ド」、そして「ミ(E)」が含まれている。
西洋音楽における「長三和音(メジャー・トライアド)」が最も安定的で明るい響きとして認識されるのは、この自然倍音列の初期に現れる倍音構成(第4、第5、第6倍音)と完全に一致するからだ。つまり、和音とは複数の異なる音を鳴らしているようでいて、実は一つの音が本来内包している「自然の響き」を、複数の楽器や声で顕在化させる行為に他ならない。人間が特定の和音に心地よさ(協和)を感じるのは、耳がこの物理的な自然法則を無意識のうちに理解しているからだと言える。
協和と不協和の歴史的境界線
「協和音(Consonance)」と「不協和音(Dissonance)」の境界線は、固定されたものではなく、音楽史と共に移動し続けてきた。中世ヨーロッパの初期多声音楽(オルガヌム)においては、最も純粋な協和音とされる完全1度、8度、5度、4度のみが使用を許されていた。現代の私たちが心地よいと感じる「3度」の和音(ドとミなど)でさえ、当時は不完全で不安定な響きとして扱われていた時代があった。
ルネサンス期を経て3度が協和音としての地位を確立すると、音楽の色彩は一気に豊かになった。続くバロック、古典派の時代には、属七の和音に含まれる「トライトーン(三全音)」などの不協和音が、解決を必要とする緊張(テンション)として機能的に扱われるようになる。そしてロマン派から近代にかけて、ドビュッシーやストラヴィンスキーらが、不協和音を解決すべき対象ではなく、独立した「色彩」として解放したことで、和音の定義は劇的に拡張された。かつては悪魔の音程と恐れられた響きが、今ではジャズや映画音楽において不可欠なスパイスとなっている事実は、人間の聴覚がいかに文化的に馴致されるかを示している。
機能から色彩へ テンション・ノートの魔法
伝統的なクラシック音楽理論において、和音は主に「機能(Function)」として扱われてきた。トニック(安定)、ドミナント(緊張)、サブドミナント(発展)という役割分担により、物語のような起承転結を作り出すためだ。しかし、ジャズや現代のポピュラー音楽において、和音はより複雑な「テンション・ノート(Tension Note)」を取り込むことで、機能を超えた微細な感情表現を獲得している。
基本となる三和音や七の和音に、9度(ナインス)、11度(イレブンス)、13度(サーティーンス)といった非和声音を積み重ねていくことで、響きに「浮遊感」「切なさ」「都会的な憂い」といった具体的な形容詞で語られるようなニュアンスが付加される。例えば、単なる「ドミソ」が明るく単純な「喜び」を表すとすれば、そこに「シ」や「レ」を加えた「メジャー・ナインス」は、「少しの影を含んだ洗練された喜び」や「追憶の中の幸福」といった、より文学的で複合的な情動を喚起する。現代の音楽制作において、コードワークとは単なる伴奏作りではなく、感情の解像度を調整する繊細な作業となっている。
倍音のスペクトルと現代音楽のフロンティア
20世紀後半以降、和音の概念はさらに科学的な領域へと踏み込んだ。「スペクトル楽派」と呼ばれる作曲家たちは、音色そのものを分析し、そこに含まれる微細な倍音構造をオーケストラ全体の和音として再構築する試みを行った。ここでは、もはや「ドミソ」といった伝統的な音程関係ではなく、音響そのものの「質(ティンバー)」を変化させるための要素として和音が扱われる。
また、電子音楽やシンセサイザーの発展により、平均律(1オクターブを均等に12分割する調律)の枠に収まらない「マイクロトーン(微分音)」を用いた和音も探求されている。人間の可聴域の限界や、心理音響学的な知見を取り入れたこれらの新しい和音は、従来の音楽理論では説明できない未知の聴覚体験を私たちに提供している。和音とは、単に鍵盤を押さえる指の形ではなく、空気の振動をデザインする音響建築の基礎単位として、今なお進化の過程にある。
短三和音の謎と文化的背景
最後に、長三和音と対をなす「短三和音(マイナー・トライアド)」の不思議について触れておく必要がある。物理的な自然倍音列の中に、短三和音の構成音は直接的には現れない。それにもかかわらず、私たちは短調の響きを「悲しい」「暗い」と感じ、長調と同様に自然なものとして受け入れている。
この理由については、「倍音列の下方投影(下方倍音列)」という理論上の概念で説明しようとする試みや、文化的な刷り込み(悲劇的な場面で短調が使われてきた歴史)によるものだとする説など、諸説が存在する。しかし、物理的な根拠が希薄であるにもかかわらず、短三和音が長三和音と同等の強度を持って人間の感情を揺さぶるという事実は、音楽が物理現象であると同時に、極めて人間的で精神的な営みであることを象徴している。私たちは、自然界に存在しない響きさえも「和音」として体系化し、そこに深い意味を見出してきた。
「和音とは」音楽用語としての「和音」の意味などを解説
Published:2026/01/23 updated:
