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レラティブチューニング

Posted by Arsène

「レラティブチューニング」について、用語の意味などを解説

レラティブチューニング

relative tuning(英)

レラティブチューニング(relative tuning)は、ギターのチューニング方法のひとつ。

スタンダード・チューニングにおいて、各弦の音程関係を保ちながら全体のピッチを上下させたチューニング。

レラティブチューニングとは、スタンダード・チューニング(EADGBEなど)の音程関係をそのまま保ちながら、全体のピッチを一括して上げ下げする調弦方法である。たとえば、全ての弦を半音下げて調弦する「半音下げチューニング」や、全音下げの「Dチューニング」なども、このレラティブチューニングの一種にあたる。

この方法では、弦同士の音程バランスは変わらないため、コードフォームやスケールポジションを変更せずに演奏することができる。一方で、実際に鳴る音の高さは変化するため、ボーカルとのキー合わせや他の楽器とのアンサンブルにおいて柔軟に対応できるという利点がある。

特にロックやメタル系のギタリストの間では、音に重厚感を加えたり、弦のテンションを下げてチョーキングやビブラートをしやすくする目的で、半音下げチューニングがよく用いられる。

また、レラティブチューニングは楽器そのものの響きにも影響を与える。ピッチを下げることで弦の振動がやや緩やかになり、太く温かみのあるサウンドが得られる一方、ピッチを上げれば張りのある明るい音色が得られる。

チューニング

「絶対」から「相対」へ:440Hzの呪縛からの解放

現代の音楽制作において、A=440Hz(あるいは442Hz)という「絶対的」な基準周波数は、デジタルチューナーの普及とともに強固な規範として定着している。しかし、レラティブチューニングの本質は、この外部的な基準から離れ、楽器そのものの響きや演奏者の身体性、あるいは楽曲の世界観を最優先する「相対的」な視点に立つことにある。

歴史を紐解けば、バロック時代の音楽はA=415Hz付近で演奏されることが多く、地域や教会によって基準ピッチはまちまちであった。つまり、音楽とは本来、固定された周波数に縛られるものではなく、その場にいる演奏者たちが共有する「響きの関係性」によって成立するものであった。レラティブチューニングは、現代において忘れられがちな、この柔軟で人間的な音楽のあり方を再提示する手法とも言えるだろう。

ダウンチューニングにおける音響物理学と心理的効果

レラティブチューニングの最も一般的な形式である「半音下げ」や「全音下げ」は、単にキー(調)を下げるだけの操作ではない。そこには、物理的な音響特性の変化と、それが聴き手にもたらす心理的な効果が密接に関わっている。

弦の張力(テンション)が低下すると、ピッキング時の弦の振幅は大きくなる。これにより、アタック音には独特の「粘り」や「コンプレッション感」が付加される。特に真空管アンプやディストーションペダルを通した際、この振幅の大きさは、より深い歪みとサステインを生み出し、聴感上の「ヘヴィネス(重厚感)」を増強させる要因となる。ジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーン、あるいは90年代のグランジバンドたちが半音下げを好んだのは、単に歌いやすくするためだけではなく、この「ダルで太い」独特のトーンを求めた結果でもある。

また、低音成分が増すことは、人間の本能的な恐怖や威圧感を刺激する。周波数が低くなるほど波長は長くなり、空気の振動が肌で感じられる物理的なエネルギーへと変化していく。メタルやドゥーム系のジャンルで極端なダウンチューニングが多用されるのは、聴覚を超えた身体的な「圧」を表現するための必然的な選択なのである。

楽器のセットアップと「関係性」の維持

レラティブチューニングを導入する際、最も注意すべき点は「楽器のセットアップ」である。定義上、各弦のインターバル(音程関係)はスタンダードと同じ(E-A-D-G-B-Eの関係性)であるが、張力が変わればネックの反り具合やオクターブピッチは確実に変化する。

テンションが下がればネックは逆反り方向へと動き、弦高が下がってビビリ(フレットノイズ)が発生しやすくなる。また、弦の振幅が大きくなることで、サドル位置での弦長補正(オクターブ調整)も再調整が必要となる。単にペグを回して音を下げるだけでは、ハイポジションでの音程が悪くなり、和音が美しく響かない。「レラティブ(相対的)」であるからこそ、各弦のハーモニーが濁らないよう、楽器の状態もそのチューニングに合わせて最適化させるという、トータルな視点での調整能力が演奏者には求められるのである。

ヴォーカリストとの化学反応:テシテュラへの配慮

バンドアンサンブルにおいて、レラティブチューニングの採用権限はしばしばヴォーカリストにある。人間の声帯は、ギターの弦のように簡単に交換することはできない。ヴォーカリストが最も魅力的に響く音域(テシテュラ)や、喉に負担をかけずに歌える最高音の限界点(パッサッジョ)に合わせて、楽器隊がチューニング全体をシフトさせることは、楽曲のクオリティを高めるための極めて合理的な戦略である。

例えば、半音下げることで、ヴォーカルはハイノートを叫ぶ際の喉の締め付けから解放され、より太く、余裕のある表現が可能になる場合がある。逆に、あえてカポタストを使用してチューニングを上げる(これも広義のレラティブなアプローチである)ことで、声の煌びやかさや抜けの良さを強調することもある。楽器のキーを絶対視せず、歌声という生身の楽器との「相対的」な相性を探るプロセスこそが、バンドサウンドの一体感を生み出す鍵となる。

耳を鍛える:デジタル依存からの脱却

最後に、レラティブチューニングの実践は、演奏者の「耳」を鍛える絶好の機会でもある。チューナーの画面上の針が真ん中を指すことだけを目視で確認するのではなく、開放弦同士の響き合い、5フレットと開放弦のユニゾン、あるいはハーモニクス音のうなり(ビート)を聴き分け、弦と弦の「関係性」が協和しているかを自らの聴覚で判断する。この習慣は、相対音感を養い、チョーキングのピッチ精度や、バンド内でのアンサンブルの混ざり具合を直感的に把握する能力へと直結する。

便利なデジタルツールは否定されるべきではないが、音の本質が「波の調和」にあることを理解し、自らの耳でその調和を作り出せるようになること。それこそが、レラティブチューニングという概念が我々に教えてくれる、音楽家としての原点回帰である。

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