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変則チューニング

Posted by Arsène

「変則チューニング」について、用語の意味などを解説

変則チューニング

irregular tuning(英)

変則チューニングは、ギターのチューニングの一種。スタンダード・チューニング以外の全ての変則的なチューニングを指す。イレギュラーチューニング。

チューニング

クラシック音楽におけるスコルダトゥーラと音色の探求

クラシック音楽の文脈において、弦楽器の標準的な調弦法から意図的に外れる手法は「スコルダトゥーラ」と呼ばれ、古くから作曲家の重要な表現手段として用いられてきた。

この技法は単に演奏可能な音域を広げるためだけのものではない。たとえば、バロック時代の作曲家ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバーの『ロザリオのソナタ』では、曲ごとにヴァイオリンの調弦を細かく変更することで、楽器内部の共鳴や運指を根本から変化させ、楽曲が持つ神秘的な主題を音響面から見事に強調している。また、カミーユ・サン=サーンスの交響詩『死の舞踏』においては、独奏ヴァイオリンのE線を意図的に半音下げてEフラットに調弦させている。これにより、悪魔的な不協和音として知られる三全音(トライトーン)を開放弦で強烈に響かせ、独特の不気味な色彩を作り出すことに成功している。このように、クラシック音楽における変則チューニングは、楽器そのものが持つ物理的なポテンシャルを引き出し、音色を劇的に変化させるための極めて高度な技法である。

現代ギターにおける変則チューニングとジャンルの進化

一方、現代の音楽の専門家としてポピュラー音楽に目を向けると、変則チューニング(オルタネイト・チューニング)は全く新しい音楽スタイルを切り拓く原動力として機能してきた。特にギターの歴史においてその影響は計り知れない。ブルースの発展期には、主要な和音を開放弦だけで鳴らせる「オープン・チューニング」が多用され、これがスライドバーを用いた滑らかで感情豊かなスライドギターの表現を生み出した。さらに時代を下り、ハードロックやヘヴィメタルの世界では、最低音の弦を1音下げる「ドロップD」などのダウンチューニングが定着し、より重厚で攻撃的なギターリフを構築するための標準的なアプローチとなっている。近年では、ポストロックやマスロックのギタリストたちが極めて複雑な変則チューニングを駆使し、ピアノのような広い音域を用いたタッピング奏法や、複数の開放弦を鳴らし続けることで生まれる独特の浮遊感を持つサウンドを生み出しており、現代ギターの表現手法は今も拡張を続けている。

デジタル環境と電子楽器がもたらすチューニングの拡張

さらに現代のエレクトロニック・ミュージックやデジタルレコーディングの視点に立つと、チューニングという概念はアコースティック楽器の物理的な張力という枠を完全に超えている。現代のデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)やソフトウェア・シンセサイザーを用いれば、西洋音楽の12平均律から外れたマイクロチューニング(微分音)を各ノートごとに設定することができる。これにより、非西洋圏の伝統的な民族音楽の音律を正確に再現したり、これまでに存在しなかった全く新しい人工的な音階を創造することも容易になった。また、録音された生のギターやベースの音を、ピッチシフトのプラグインを用いて後から極端にダウンチューニングする手法も、現代のベースミュージックなどで地を這うような重低音を作り出すために頻繁に用いられている。

楽器の可能性を解放する変則チューニングの力

標準的なチューニングは、楽器を効率よく演奏し、他の楽器と調和するための非常に合理的なシステムである。しかし、あえてそのルールから逸脱する変則チューニングの歴史を辿ることは、作曲家やクリエイターがいかにして未知の響きを求め、楽器の限界に挑んできたかを知る上で非常に有益である。音楽用語としての変則チューニングやスコルダトゥーラを理解することは、クラシックの計算された不協和音から現代のエクストリームな重低音まで、音楽の表現がいかにして自由を獲得してきたかを深く読み解くための優れた手がかりとなる。

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「変則チューニングとは」音楽用語としての「変則チューニング」の意味などを解説

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